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公開 | みふねたまき

降る雪のイメージを和紙に重ね、美しく折る『ORITO』@札幌

札幌_和紙_灯り_ORITO_品田さん


夜が長くなるこれからの季節、わが家のくつろぎ空間がやさしい灯りで満たされるのは、何とも心地よく嬉しいもの。やさしい灯りといえば、思い浮かぶのは和紙のランプシェード。そこで今回は、札幌を拠点に和紙を使ってランプシェードやモビールなど、唯一無二の作品をつくる『ORITO(おりと)』の品田美里さんをご紹介します。
月に一度、工房を開放して『紙宵』なるイベントを開催しているということで、さっそくお話を聞きに行ってきました。

 

淡路島で開かれた、野生の感覚



札幌_和紙_灯り_ORITO_ロゴ▲表札にはORITOの文字。何故「オリト」なのかは、ここから続く本文で


JR星置駅から、てくてく歩いて10分ほど。玄関先にさりげなく『ORITO』のプレートが掛けられた家を発見。ここが美里さんの工房です。

いつもは一人黙々「折り」に取り組む空間を、「紙宵」の日は朝の10時から夜の10時まで、終日開放。おいしいお菓子とコーヒーをお供に、美里さんから「折り」の手ほどきを受けられる人気のイベントです。この日もお馴染みさんや初めての方が、それぞれ自分のペースで紙を折ったりおしゃべりしたり、楽しく自由に過ごしていました。

ワークショップの様子も気になるところですが、まずは美里さんと『ORITO』の「折り」、そのはじまりからお聞きしましょう。


札幌_和紙_灯り_ORITO_ワークショップ▲ワークショップについて説明する美里さん。工房には多彩な作品が飾られている


20代後半、日本語教師として淡路島に赴任していた美里さん。自然豊かな島の暮らしで、さまざまな人と触れ合うなか、漁業や農業など一次産業に携わる人々に大きな影響を受けたといいます。

「漁師さんや農家さんと話していると、野生の勘みたいなものが発達していることを感じる場面が何度もあって、驚きましたね。例えば、遠くの空の変化や肌をなめる風の質感で雨を予測したり、山の中で3mも先にある山菜を見つけたり、自然とともに生きている感じが、とにかくカッコよすぎて。自分も同じ人間だから、そういう能力があるはずなのに、すっかり衰えてしまっている。それを復活させたいと思ったんです」


札幌_和紙_灯り_ORITO_工房内▲古い箪笥の上にさりげなく並ぶお気に入り。右の白い箱型のものは美里さんの作品


眠れる野生の勘を取り戻すため、とにかく土に触れたいと周囲に相談した美里さん。タイミングよく行政の緊急雇用で、特産品づくりのプロジェクトに携われることになり、日本語教師の仕事を辞めて期間限定ながら農業に転身。地元の人に教わりながら休耕田を耕し、無農薬でひまわりを育て、搾油までを一年かけて手掛けたそう。

「毎朝畑に行って、草をひいて、土に触れる生活のなかで、少しずつ自分が開いていく感覚がありました。島にはアーティストの方も多く暮らしていて、農作業の合間に彼らのイベントやカフェのお手伝いもしていたので、ものづくりの様子を間近で見聞きするうちに感化された部分もあるかもしれません」。

 

降る雪に心動かされ、紙折る人に



札幌_和紙_モビール_ORITO▲やさしく揺れる和紙のモビール


約束の期限を終えて、淡路島から生まれ育った札幌に戻ったのが2013年1月。街が雪で覆われる季節です。
「しんしんと降る雪や鼻から入ってくるツーンと冷たい空気、見慣れているはずの冬の景色にものすごく感動して、自分の手を動かすことで、その感動を表現したくなったんです。自分のなかに溜め込んでいた何かを吐き出したかったのかもしれません」

とにかく手を動かしたいと、身の回りを探したとき、目にとまったのが折り紙でした。それから2週間、とりつかれたように紙を折り続け、無意識のうちにさまざまな造形を生み出します。


札幌_和紙_ORITO_ワークショップ▲ワークショップでは希望に合わせて折り方をアドバイス


「ただ紙と向き合って、一心に手を動かしていることが気持ちよくて、浄化されていくような感覚。折っていることが幸せで、何時間でも平気で折り続けていました。ちょっとおかしくなっていたのかもしれません(笑)。さすがに親からは心配されて、そろそろ働いたらって言われちゃって…。カフェで働き始めたんです」

このとき作ったのが16枚の紙を折り重ねた作品「kikka」です。繊細に重なる和紙の花びらが、雪の結晶にも見えて、美しさに心を奪われます。
「こんなカタチにしようとイメージしていたわけではなく、ただ360度どこからみても美しいカタチをつくりたいと思って折っていました」


札幌_和紙_モビール_ORITO▲美里さんの折りの原点「kikka」


ただただ無心に手を動かし、気づくと出来上がっている美しいカタチ。美里さん自身、どのように折ったのか分からなかったというから驚きです。ところが幸運なことに、紙を折ってつくりあげた作品は、折りを解体することで手の痕跡をたどれます。


札幌_和紙_ORITO▲空気中の水分を吸収して花開くようにふくらむ「kikka」


「折り上げると必ず一度解体して手順を確かめます。自分でもこんな折り方をしていたんだって発見がありますし、断片的に記憶が残っているうちに解体することで、折り方を覚えることができますから。解体してパーツごとに折りの形をファイリングしておくんです。しばらく時間があくと折り方を忘れてしまうので必ずファイルを確認しますし、毎回ゼロから初めて折るような気持ちです」

紙と向き合うときは、何の作為もなくまっさらな気持ち。「紙を折る」ことは、限りなく瞑想に近いという美里さんの言葉に納得です。

 

和紙のつくり手と運命の出会い



札幌_和紙_ORITO_黒谷和紙▲ランプシェードやモビール、アクセサリー、作品に合わせて厚さも様々な紙を使い分ける


折りを始めたころは、薄くて透過性のあるトレーシングペーパーを好んで使っていた美里さん。つくった作品をモビールにして、動画をSNSにアップしたところ、札幌のギャラリー関係者から「もっとちゃんとやった方がいい」とアドバイスされたそう。

この言葉をきっかけに素材をトレーシングペーパーから和紙にすることを思い立ち、ほどなく運命に導かれるように黒谷和紙の職人と出会います。

「働いていたカフェにハタノワタルさんという和紙職人の個展の案内が届いて、プロフィールを見ると出身は淡路島。北海道に住んでいたこともあり、その時は畑もつくっていて、今は京都で黒谷和紙を漉いている…と。何だろうこれは?と驚きました」。多すぎる共通点に、これはもう会いに行くしかないと、美里さんはギャラリーに在廊中のハタノさんを訪ねます。淡路島のこと、北海道のこと、畑仕事のこと、共通の話題をきっかけに会話も弾み、自然に打ち解けることができたそう。


札幌_和紙_ORITO_黒谷和紙▲黒谷和紙の原料となる楮


「ハタノさんに自分で折ったものを見せたら、面白いもの作ってるやん、和紙使うなら1枚からでも送るよって言っていただいたんです。嬉しかったですね。私の折りが作品になったのは、それからです。モビールのほかに、友人に頼まれてアクセサリーもつくるようになり、作品のバリエーションも増えていきました」


札幌_和紙_折る_ORITO_ピアス▲「kikka」をモチーフにしたピアス


札幌_和紙_折る_ORITO_ピアス▲自然の色で染めた和紙で折ったアクセサリーパーツ

 

『ORITO』として「折り」を仕事に


札幌_和紙_折り_ORITO_灯り_ギャラリー▲工房2階はギャラリー。ランプやモビールなど作品が展示されている


その後、勤めていたカフェに訪れる人との会話から、セレクトショップに作品が並ぶなど、折りの仕事が増えていきます。カフェでは責任ある仕事を任されていたこともあり、「このままでは中途半端になってしまう。もっと折りに集中したい」と、2015年の暮れにカフェを退職。「月々の安定した収入があると逃げ場があるような気がしたので、退路を断ってストイックに折りに取り組むことを覚悟しました」。


札幌_和紙_ORITO_灯り_ランプシェード_品田さん▲折りたたみ式のシェードを取り付ける美里さん


「折り」の作家として一歩を踏み出した2016年。年始早々「ホテル1棟分の照明を折りのシェードに」という大きな仕事の依頼が舞い込みます。独立して初めての仕事、求められることも、制作する数も、これまでの作品づくりとは別次元。とてつもないプレッシャーに押しつぶされそうになりながら納品を完了したものの、美里さんは心身ともにすりきれてしまいます。


札幌_和紙_ORITO_灯り_シェード▲灯りに浮かぶ繊維が美しい模様を描きだす


このままでは続けられないと思いつめた美里さん。「起業もしていない状態で法人の方とお仕事するのも失礼ですし、辞めることも考えました」。けれど、「折り」を諦めることはできないと事業化を決意。紙の折り人である自身の覚悟を屋号に込めて、2017年に『ORITO』としてリスタートします。

 

多くの人に伝えたい、和紙の魅力



札幌_和紙_ORITO_黒谷和紙_灯り_シェード▲自然界にある鉱物のようにも見えるランプシェード


「全国あちらこちらに出かけて、ギャラリーで個展やワークショップを開いたり、雑誌で紹介していただいたり、模索しながらいろいろやってきて、やっと芽吹いてきたかなって感じています」。

今年9月に開催した大阪の展覧会でも、2020年につながる大きな出会いがあったそう。加えてもう一つ、この秋から非常勤講師として大学の教壇に立ち、「折り」の指導をすることが決まっています。


札幌_和紙_ORITO_折る_品田さん▲和紙に囲まれ工房で過ごす時間、「折りたい気持ちのままに折るときが一番しあわせ」と美里さん


「私の役目のひとつが、和紙をちゃんと正しく伝えることだと思っています。作品を見て、和紙に親しみ、実際に感じていただく。その積み重ねが、いずれ和紙の需要につながって、和紙職人さんの生活が安定的に成り立つようにしたいと、勝手に使命に感じているんです。ものづくりのなかでも、紙は一番身近な素材です。だからこそ子どもたちには、もっともっと触れてほしい」と、和紙について語るとき、美里さんの言葉はひときわ熱を帯びます。


札幌_和紙_ORITO_黒谷和紙▲強くて破れにくく、文化財の修復にも使われる京都の黒谷和紙。美里さんの作品づくりに欠かせない素材


大学では美術の教師を目指す学生たちに、和紙と折りの魅力を肌で感じてもらえるよう工房での講義も計画しているそう。
「和紙は教育の場面でもっと使われるべきだと思っていましたし、折りそのものにも子どもの創作意欲を掻き立てる要素があるので、それを伝えてくれる人が増えるのは、とても幸せなことです」


札幌_和紙_折り_ORITO_工房_灯り▲常夜灯のように空間にぽっと灯りをともす


札幌_和紙_折り_ORITO_灯り_ギャラリー▲折りのデザインもさまざまな作品と出会える2階のギャラリースペース


自分が生み出した「折り」の表現を惜しみなく人々に伝えることで、つくり手が減りつつある日本の和紙を、身近な素材として使われる機会を増やしたいと語る美里さん。


札幌_和紙_折り_ORITO_工房_ワークショップ▲ワークショップでは『ORITO』の折りを惜しみなく伝授


札幌_ORITO_和紙_折り_オリト▲折りのほかに、紙片をパッチワークのように貼り合わせてつくる作品も


札幌_和紙_折り_ORITO_workshop_お菓子▲「紙宵」の日にはお菓子の移動販売を手がける「marucuru」さんの焼きたてスイーツが並ぶ


札幌_ORITO_折り_和紙_ワークショップ_工房▲笑顔も声もとってもチャーミングな美里さん。ワークショップは和気あいあい、とっても楽しい雰囲気


月に一度開催されるワークショップ「紙宵」では、そんな美里さんとのおしゃべりも楽しみのひとつ。工房には本格的な厨房設備が整っていて、お菓子の移動販売を手がける「murucuru」さんの焼き菓子やキッシュが並びます。遅い時間、お腹を空かせてやってきた人のために、スープやカレーが登場することもあって、それを楽しみに来る人も多いそう。
カフェで働いていた美里さんが、丁寧にドリップしてくれるコーヒーも絶品。ぜひ工房のスケジュールをチェックして足をお運びください。

 

イベントスケジュール


「紙宵」をはじめ、東京・大阪・名古屋で開催されるイベントにも参加予定。お近くにお住まいの方は、この機会にぜひお出かけください。

●紙宵(kamiyoi)@ORITO工房/札幌
2019年11月8日(金) 10:00~22:00
2019年12月13日(金) 10:00~22:00

●pop up shop ULU "となりのノワール" @shed/東京・二子玉川
2019年11月29日(金)〜12月1日(日) 

●"となりのノワール" @shop ULU/大阪・豊中アトリエ
2019年12月13日(金)〜12月21日(土)

●NEW CRAFTS NEW YEAR by CreFes @ラシック1F /名古屋・栄
2020年1月2日(木)〜1月8日(水)

 

関連リンク

・ORITO
・ORITO Instagram
 
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