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公開 | 小西 由稀

情熱の仕事人。農業と地域の未来を見据えたロボット農業の最前線。北海道大学農学研究院教授「野口伸」

北海道大学大学院 農学研究院の野口伸教授


え、人が乗っていない!?
田んぼを進む無人トラクターを初めてニュース映像で見たときは驚きました。無人トラクターと聞いて、人気のドラマシリーズを思い出した読者も多いのではないでしょうか。
 
これら「ロボット農業」はドラマやフィクションの世界ではありません。次世代の、そして地域活性化のキーテクノロジーと位置づけられた、今もっとも注目を集める研究分野のひとつ。
 
その世界的な第一人者が、北海道大学 大学院農学研究院の野口伸(のぼる)教授です。今回はワクワクするような北海道、日本の農と食の未来の話をうかがいました。
 

無人トラクター▲田んぼを自動走行するロボットトラクター。もちろん無人!写真提供/野口教授

 

農家や農業のためになる
技術を研究し現場に届けたい

野口教授は三笠市生まれ。とはいえ、北海道には2歳までしかおらず、その後は山口県で育ちます。生まれ故郷に対する親近感と憧れを抱き、北海道大学農学部進学のため、再び北の大地へ。
 
当初は農業機械、特にエンジンの研究をしていましたが、農業の現場を知るほど、担い手不足の深刻化を痛感。研究の成果が現場に届く実学を旨としていた野口教授は、「人間に変わって作業できるものをつくれると、農業のためになる」。そう感覚的に捉えたと振り返ります。


北海道大学大学院 農学研究院の野口伸教授▲1961年生まれ。北海道大学 大学院農学研究院 副研究院長・教授。専門は農業情報工学、農業ロボット工学。内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」プログラムディレクター。農学博士。池井戸潤さんの小説「下町ロケット ヤタガラス」に協力し、ドラマでは監修も
 

そんな野口教授がロボット農機の研究に本格的に取り組み始めたのは、同学大学院で助手を務めていた29歳の時。翌年、大学院生とともにロボット農機第1号を開発。研究費がないので廃材を集めて完成させたという実験車両で、農地を無人で自動走行するだけのシンプルな構造でした。

 
ロボット農機1号▲こちらが記念すべきロボット農機第1号。人工衛星(GPS)の利用がまだ一般的ではない時代だったので、自作の位置計測システムを搭載
 

その当時、国内でロボット農機の研究で先行していた「農研機構」(埼玉県大宮市)の交流研究員として勤務。約5年間、机上と現場との違いを体感しながら、耕うんロボットの開発に参画。
 
さらに、客員教授として4年間、アメリカ・イリノイ大学へ。飛躍的に精度が上がったGPSを活用したロボット農機の開発に携わり、民間企業との共同研究は大きな刺激になりました。


北海道大学大学院 農学研究院の倉庫内のロボット農機▲倉庫には、新旧のロボット農機がズラリと並び圧巻!
 

帰国後、野口教授率いる「ビークルロボティクス研究室」の研究開発は一気に加速します。「今思うと、学外での2つのキャリアが、その後の研究の起点になりました」。

 

ここまで研究開発が進んでいる
野口研究室のロボット農機の今

2018年は「ロボット農機元年」といわれています。世界に先駆け、日本の各農機メーカーが無人走行のロボットトラクターを次々と発売したからです。
 
それというのも、北海道初のロボットトラクターの無人化に成功した野口教授が、あえて特許を申請せず、社会貢献の一環として技術公開をしたことで、実用化が進んだのです。


北海道大学大学院 農学研究院の野口伸教授


では、ビークルロボティクス研究室の研究開発は、今どこまで進んでいるのでしょう?
 
最新の実験車両はトラクターにセンサーを搭載し、GPSで位置を計測。単に無人で自動走行するだけではなく、すべての農作業ができるようにプログラムが可能で、人に代わって仕事を行います。
 
ロボットというとヒト型を思い浮かべますが、このトラクターもまさに自律型ロボット!
 

ロボット農機▲倉庫から畑や田んぼまで自律的に走行し、土起こし、種まき、施肥、除草、農薬散布、収穫など、生産者の一年をサポート。写真提供/野口教授

 
気になる安全面ですが、前後左右に障害物発見センサーを導入。設定した距離内に障害物を検出すると警告音が鳴って停止するなど、安全装置を実装しています。
 
「ただ実用化するには、センサーの精度など、ロボットの技術面だけではカバーしきれないハードルがまだまだあります」。
 

ロボット農機▲収穫作業も無人・自走が可能。写真提供/野口教授
 

さらに驚くのは、世界初の「協調型ロボットトラクター」。
複数台のロボットトラクターが自分と相手の位置関係を認識。プログラムされた作業工程を、編隊を組んで協調して行います。
 

ロボット農機の協調作業▲完全無人化する技術は確立されているが、安全のため、中央のトラクターには人が乗って管理=人は作業をしなくてOK!指定した各種作業を5cm以内の精度で行い、走行できる。理論上は何台でも協調可能。写真提供/野口教授
 

「協調作業は農家の負担を軽減し、作業能率が2倍、3倍、4倍とアップ。北海道のように大規模な面積はもちろん、飛び地でも無線通信による遠隔監視で協調作業が可能です」と、野口教授。
 
陸だけではありません。こちらの写真は野口教授と研究室のみなさんですが、右のおふたりが持つドローンに注目。


野口研究室のみなさんと
 

農薬散布など農業現場ですでに活躍中のドローンですが、研究室で開発しているのは、作物の生育状況など畑の様子を自動的に観察できるドローン。葉に隠れてわかりにくいカボチャの状態を3D化して情報を収集。実がなっている位置も把握する研究が進められています。
 
カボチャといえば、重量野菜の収穫に威力を発揮するロボットアームも開発中。
 

ロボットアーム▲カボチャを収穫して指定の場所まで運ぶようにプログラム。カボチャが傷つかないようにアームの部分はゴムを使う気遣いも
 

現在の課題は、安全面のさらなる精度向上。そして、低コスト化と小型化。ロボット農機を小型化することでコストダウンを図り、実用化に向けた道筋をつけていくことが目標でもあります。


ロボットボート▲水田の農薬散布や除草用ラジコンボートの自動化にも取り組んでいる

 

野口教授が考える未来予想図
スマート化で地域、産業を豊かに

野口教授が農業ロボット研究を始めて25年。まだ実験段階ではありますが、農業の未来がとてもリアルに感じられ、ワクワクします。
 
さらに、ロボット農業はAI技術を活用した「スマート農業」へと大きく進化しています。
 
「ロボット農機は今、高精度に走ることはできますが、生育状況を見ながら適切に農薬をまいたり、収穫のタイミングを計ったりという、熟練農家が培ってきた知恵や技術についてはわからない訳です」。
 

イメージ写真

 
「そういった農家のノウハウ、ロボット農機で収集した作物生育情報、さらには気象、植物生理、土壌、環境といった情報が、全道各地からプラットフォームに集められる。
 
蓄積されたビッグデータをロボット農機と融合させることで、ロボット農機は自ら判断しながら作業を進めていくことができる。つまり、ロボット農機の頭脳が外にある。そうイメージするとわかりやすいかもしれません」。
 

北海道大学のロボット農機

 
センシング(センサーを利用して計測・判別すること)やデータ解析技術が向上すれば、「人間の目では見逃してしまう病害虫の兆候を発見することも可能になり、農薬の節減にもなる」といいます。
 
「未来型ロボット技術によって、若い人たちが農業を選びたくなる魅力ある明るい産業にしたい。儲かる。余暇が増える。これは大切なことです」。
 

北海道大学大学院 農学研究院の野口伸教授

 
スマート化は農業だけではありません。生産から流通、加工、販売、消費までのデータをひとつなぎにして、相互活用を可能にさせる「スマートフードチェーン」が今後構築されると、「食を取り巻く産業全体の活性化にもつながります」。
 
例えば、消費者の「欲しいもの」と生産者の「作れるもの」を引き合わせることで、生産者のロスが減ってコストが削減できる。生産者と料理人をマッチングさせ、より効率的に生産・加工を行うことができる。
 
需要と供給のバランスを取ることで労働時間を30% 、食品ロスを10 %削減できるという試算もあります。「日本の食品廃棄率は世界でも上位。SDGsの観点からも世界の食料不足改善に貢献できます」。
 
「個々の生産性向上や経営改善に役立ててもらうことはもちろん、こういった技術を使って地域や産業がどのように活性化していけるのかを考えてもらえたら、と思っています」。
 

北海道大学大学院 農学研究院の野口伸教授
 

就業人口の65%が65歳以上、平均年齢は66.8歳。高齢化や人材不足が深刻化する日本の農業の課題解決に期待がかかるロボット農業、スマート農業。
 
ここには書き切れないほどの、農と食の可能性が広がる未来、それも数年先という割と近い未来の話をうかがいました。ロボット農業の技術を北海道から地域へ、日本へ、そして世界へ。野口教授、ありがとうございました。

 

関連サイト 

北海道大学
北海道大学 農学研究院 ビークルロボティクス研究室
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小西 由稀

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