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公開 | 小西 由稀

大地を創る人。食と農をつなぎ、都会と田舎のすき間を埋め、暮らしを豊かに。「株式会社りんねしゃ」飯尾裕光さん(滝上町)

りんねしゃの飯尾さん


今回の「大地を創る人」は、道北の滝上町へ。飯尾裕光さんに会いに行ってきました。
 
とびきりの笑顔を向ける飯尾さんの前に咲く白い花、何かわかりますか?飯尾さんはマーガレットに似たこの花を育て、ある製品をつくっています。
 

除虫菊

 

自社栽培産、天然成分で製造する
日本で数少ない防虫線香

正解はシロバナムシヨケギク(和名)。「除虫菊」の名前でも知られ、蚊取り線香の主原料に使われています。
 
合成成分を使う商品が多い中、飯尾さんが専務取締役を務める「株式会社りんねしゃ」では、自社栽培の除虫菊など、日本で数少ない天然成分のみを使用した蚊取り線香を製造しています。
 
「この花は面白くて、咲いている状態では殺虫効果はほぼなし。花を乾燥させ、製粉して、火を点けてはじめて、殺虫効果があらわれるんです」。
 

除虫菊▲除虫菊は天然殺虫成分のピレトリンを持つ

 
除虫菊はかつて、日本が誇る輸出作物でした。
 
「一番多く栽培された北海道の北見地方では、薄荷(ハッカ)も多く栽培されていました。当時、除虫菊、薄荷、紅花の3種は、世界中に輸出していたぐらい多く生産されていた原料作物なんです」。
 

りんねしゃの飯尾さん

 
ところが、戦後に化学合成された殺虫成分が登場。薄荷も紅花も同様に、安価で手軽な化学合成物にとって代わり、生産は激減。特に除虫菊は現在、瀬戸内エリアに観光用として残されている程度だといいます。
 
「国内で産業用として栽培しているのは、うちだけだと思います」。

 

手探りで始まった除虫菊の栽培。
繊細な原料作物を守っていく

愛知県に本社を持つりんねしゃは、1979年創業。飯尾さんの両親が興した自然食品事業がベースとなり、食や環境、暮らしの安全や安心と向き合い、無添加食品や有機農畜産物、天然生活雑貨を製造販売する会社です。
 

除虫菊
 

りんねしゃで除虫菊を使った線香の製造を検討し始めたのは、25年ほど前。天然の除虫菊で蚊取り線香をつくる会社の事業を引き継ぐ形でスタートしました。
 
「原料作物を守ることにも意義を感じ、決断しました。原材料の配合比率を決める実験を繰り返して、原料調達から新たに自社で開発した製品が『菊花せんこう』です」。
 

菊花せんこう▲北海道産の白樺の木粉に製粉した除虫菊、つなぎのデンプンを混ぜて乾燥させて防虫線香に


katori▲こちらは殺虫成分が強い医薬部外品の蚊取り線香「KATORI」。北欧風のデザインが素敵。ペット用もある
 

菊花せんこうに使う除虫菊の多くは、中国の契約農場で栽培。国産原料を栽培するために2006年、栽培適地であるオホーツク・滝上町に「りんねしゃ北海道支店」と「北海道農場」を開設。


除虫菊の畑▲ほぼ収穫が終わっているので野原のようだが、りんねしゃの除虫菊の畑
 

農場責任者として、飯尾さんは月の3分の1を滝上町で過ごします。
 
多年草の除虫菊は雪解け後の4月後半~5月にかけて芽が出始め、7月~8月に収穫。乾燥させて裁断し、国内の工場に出荷。その後は畑の手入れ、管理をして、冬に備えるといサイクル。


りんねしゃの飯尾さん


「除虫菊は生命力のある植物ではないので、栽培がとても難しい作物なんです」。
 
え、名前からは繁殖力旺盛なイメージがあるのですが…。
 
「種を蒔いても芽が出にくい繊細な植物。成長段階でも丁寧に周囲の草を刈らなければいけないなど、手間がかかります。
 
北海道で栽培を始めて10年経ったころ、ようやくある程度の量を収穫できるようになりました。ただ、栽培方法にはまだ試行錯誤をしています」。


菊花せんこう▲100%天然成分なので、香りがやわらかいのも菊花せんこうの特徴 

 

農の視点と食の視点を融合させ、
都会と田舎のすき間を埋める仕掛けを

飯尾さんは愛知県と北海道で2拠点農場を営みながら、オーガニックカフェの経営、名古屋を代表するマルシェやワークショップ、体験農場を運営。さらには世界の農の現場を見てレポートをするなど、多方面でパワフルに活動しています。


りんねしゃの飯尾さん▲1975年愛知県生まれ。愛農学園高校在学中、オーストラリアに留学。三重大学生物資源学部卒業。現在も大学院で有機農業の博士号取得に向けた論文を執筆中
 

飯尾さんの原点は、子ども時代の生活にあります。
 
「両親の教育方針で小学生のころに、電気もガスも水道もない自給自足の暮らしを数年間していました。なかなか強烈な経験ですよね(笑)。
 
それで自然も農業も大好きになって、食と農を人生のテーマと決めました。高校、大学では有機農業や食を徹底的に勉強し、卒業後はりんねしゃに入社しました」。


薄荷の赤丸▲りんねしゃでは滝上町で薄荷も栽培。在来種から選抜した「赤丸」という品種で、精油し、エッセンシャルオイルを製品化
 

一貫して考えているのは、「食と農」や「都会と田舎」をどうつなげるのか、すき間をどう埋めるのか。
 
農業はつくるだけでは産業として成立しない。調理する+食べる。商品化する+活用する。出口を逆算、計算してこそ生きる産業。
 
「僕は自分で農業生産を行うというよりは、都市住民に食や農に気軽に触れてもらうため、第一歩を踏み出す環境をいかにつくれるか。コーディネートできるか。そこを常に考え、動いていますね」。
 

りんねしゃの飯尾さん


農業のすばらしさや農家の技術を伝えることも大切。それと同じくらい、農産物の使い方や食べる楽しさを伝えることも大切。農の視点と食の視点を融合できれば、産地や生産者のためになる。それが何よりも大切。
 
そのために重要なファクターが、「デザインと言語化」と飯尾さん。「僕の経験を通して、都市住民にわかりやすいように言語変換し、伝わるデザイン、仕掛けを考えています」。
 
農業者の立場を理解し、消費者の目線を持つ飯尾さんだからできるつなぎ方、ですね。


たまご▲滝上町の農場では鶏も飼っている

 

とてつもないエネルギーとポテンシャル
北海道は新しい時代の故郷になれる

北海道についても話を聞いてみました。
 
「北海道の植栽の多さにびっくり!一年の半分は雪で閉ざされるのに、どうして植物はデカくなるんだろう。凝縮されたエネルギーのすごさを感じます。だから、ここで農業をやるのがチョー楽しい!」。

飯尾さんは滝上町に、新しい“里山”をつくりたいと考えています。
 
昔の日本には当たり前のようにあった里山。森や林、集落、農の暮らしを支える自然など、里山にはさまざまな意味がありますが、「人間らしく生きることができる自然、資源、知恵、技が育まれ、受け継がれる仕組み」。これが、飯尾さんが考える里山です。


レストランありす▲滝上町にある「レストランありす」はりんねしゃの運営。地場の食材で紡ぐメニューが楽しみ

 
「小さくても除虫菊から蚊遣り香や防虫線香までを、薄荷からエッセンシャルオイルまでを、生産だけではなく商品にできるラインをつくりたい。そして、里山の多層的な価値を言語化してきちんと伝えていきたいんです。
 
みんな、滝上町に北海道に、どんどん来ればいい。移住だけじゃなく、二拠点居住だったり、休みに遊びに来るんだっていい。移動することで文化は広がるから。
 
北海道ならもう一度、里山を再現できるポテンシャルがあるし、新しい時代のふるさとにもなれる。そう思うんですよ」。


番犬▲人懐っこい性格だが、鶏をキツネなどからしっかり守る番犬くん
 

そんな話を聞かせてもらったのは、除虫菊の収穫が終わったころ。その後、ビッグニュースが飛び込んできました。
 
国際協力機構(JICA)による中小企業・SDGsビジネス支援事業の審査を経て、「100%天然素材の蚊取線香の製造バリューチェーン構築による除虫菊産業再興事業にかかる案件化調査」が採択!
 
ケニアの除虫菊産業の再興のために、生産から商品販売までの技術指導を行い、伝染病対策への貢献、農村を守る人材育成など、除虫菊を通してさまざまなプロジェクトを実施していくための機会を与えられたのです。
 
活動の幅が広がっても、飯尾さんの思いの根っこはひとつ。農業や農村を守り、暮らしを豊かにする取り組みを広げていくこと。今後の飯尾さんの活躍に目が離せません。
 

除虫菊

 

関連リンク 

株式会社りんねしゃ 
株式会社りんねしゃのFacebookページ 

 

「大地を創る人」とは

さまざまなおいしい食を生み出す北海道を「大地」と表現。農業や漁業、酪農業を通し、「新しい北海道を創りたい」「北海道を支えたい」「未来の北海道をデザインしたい」。そんな思いを胸に抱く北海道の生産者を、「大地を創る人」としてご紹介します。
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小西 由稀

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