
大泉洋さん主演の「北海道映画シリーズ」の第三弾『そらのレストラン』が、間もなく公開されます(2019年1月25日全国ロードショー)。
今回のストーリーには、実在のモデルがいます。道南・せたな町を中心とするゆるやかな農家ユニット「やまの会」です。
果たしてどんな“会”なのか、秋晴れのせたなにメンバーを訪ねました。
目次
・『そらのレストラン』はこんな映画です・モデルになった「やまの会」とは?
・どんなものをつくっているの?
・映画撮影の裏話、教えてください!
『そらのレストラン』はこんな映画です

海の見える牧場で酪農とチーズ工房を営む亘理(わたる)は、妻と幼い娘と幸せな三人暮らし。食への一途な思いを共有する仲間たちに囲まれ、厳しくも豊かな自然のなかで、めいっぱい賑やかに楽しく暮らしている。
夢は、師匠のチーズ職人・大谷にいつか追い付くこと。あるとき亘理は、自分たちの食材をもっと多くの人に知ってもらうため、一日限定のレストランを開くアイデアを思い付く。
だが、そのチーズ作りに悩んでいた矢先、師として頼りきっていた大谷が突然、倒れてしまい……。

『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』に続く大泉洋主演の北海道映画シリーズの三作目。
自然派農家ユニット「やまの会」をモデルに、やわらかく溶けてさまざまな素材を一つにまとめる「チーズ」と、その熟成した味わいのように濃厚な「仲間」の絆がテーマ。
監督は『神様のカルテ』『サクラダリセット』シリーズなどの深川栄洋。本上まなみ、岡田将生、マキタスポーツ、高橋努、石崎ひゅーいなどが共演。
モデルになった「やまの会」とは?

北海道の南西部に位置し、日本海と山々をのぞむ美しいまち、せたな町。5軒の農家ユニット「やまの会」がここに発足したのは、2008年…くらい。
ん、“くらい”って(笑)。
「よし、結成しよう!って、意気込んでつくったわけではないんです。とある商品見本市に仲間で出品しようとなり、出るからには何か名前が必要で。それで『やまの会』と」(富樫さん)。

失礼ながら、なんというゆるさ。
漁業と農業が基幹産業のせたな町では、昔から漁業者を「海の人」、農業者を「山の人」、それ以外を「まちの人」と呼んでいたことから、「やまの会」と名付けたといいます。
「どんな会かと聞かれたら、『持続可能な循環型農業をしているユニット』という感じでしょうか。メンバーは5軒ですが、それぞれの農業スタイルがあり、つくっているもの飼っているものはさまざまです」(村上さん)

「“会”といっても、勉強会とか会合とかを開くんじゃなく、『一品持ち寄りの集い』が基本。せたなに料理人やミュージシャンなど、誰かお客さんが来たら、自分のところの農産物や料理を持ち寄って、食べる、飲む、しゃべる、歌う、笑う(笑)」(ソガイさん)。

その一品持ち寄りの集いを拡大させたのが、「やまの会レストラン」。札幌をはじめ道内の料理人がせたなを訪れて腕をふるい、やまの会がサービスを担当する。
このイベントは、『そらのレストラン』で描かれる一日限りのレストランのモチーフにもなりました。

「農家は群れをなすことはしないから。でも、理解者、仲間がいればもっとがんばれる」(富樫さん)。
例えば、仲間の農作物の評価が高いと、自分もうれしい。仲間が新しい挑戦をすると聞けば背中を押すし、自分も良い刺激も受ける。

そう、自分たちにとって、会の名前はそれほど重要ではなく、持続可能な循環型農業をベースに、気持ちでつながっている大切な仲間。農業理念で結びついている“心のパートナーシップ”が「やまの会」なのです。
では、「持続可能」「循環型」とは、どういう農業なのでしょう。続けて話を聞きました。
どんなものをつくっているの?
「やまの会」が大切に考えている「持続可能」「循環型農業」を要約すると、こんな感じでしょうか。自然に寄り添い、農薬や肥料といった外部のエネルギーになるべく依存しない。自然本来のサイクルを大切にし、環境への負荷をできる限り減らし、整える。
そのための手段が有機農業であり、不耕起(耕さない)・無農薬・無肥料・無除草といった自然栽培、放牧というスタイル。

富樫さんは重度のアトピー性皮膚炎を患い、ナチュラルな食を求め、生きるために農業の道を選択。「秀明ナチュラルファーム北海道」では米や大豆を中心に栽培し、醤油(おすすめ!)や味噌、納豆などもつくっています。

村上さんは「村上牧場」で放牧するジャージーやブラウンスイスのミルクで、チーズづくりをしています(チーズ工房「レプレラ」)。放牧ミルクの風味を生かし、この土地だから表現できるチーズの味を目指しています。

ソガイさんはせたなの隣町、今金町で土を耕さず、肥料を与えず、微生物がいきいきと暮らす土壌で、数多くの野菜と米を生産。「シゼントトモニイキルコト」ブランドで、トマトジュースやソースなど野菜の加工品もつくっています。

そのほかの「やまの会」メンバーもご紹介。「よしもりまきば」の大口義盛さんは、自家栽培のトマトをエサにした「トマトひつじ」が人気。
「ファームブレッスドウィンド」の福永拡史さんは飼料に抗生物質を使わず、黒豚を自然放牧しています。
環境にもひとにも負荷をかけない農業スタイルなため、生産量は限られますが、いずれも共通しているのは、道内外のシェフたちに認められた食材だということ。
「やまの会」のメンバーに会いに、せたなを訪ねる料理人が多いという話も頷けます。
映画撮影の裏話、教えてください!
そもそも、「やまの会」をモデルに…という話があったのは、前作「ぶどうのなみだ」が公開のころ。「仲間」「海」「チーズ」といった今作のテーマやキーワードが、「やまの会」にぴったりだったから。
そこから製作サイドは時間をかけ、「やまの会」との信頼関係を築き、メンバーを丁寧に取材。数々のエピソードとフィクションを織り交ぜながら、『そらのレストラン』の脚本はできあがったそうです。
一方で「やまの会」は、製作サイドの気持ちに応えたいと、全面的に撮影に協力。台本通りのシーンが撮れるように撮影前の準備から携わり、撮影中もサポート。「気持ちの中ではスタッフの一員でした」(富樫さん・村上さん・ソガイさん)。

「やまの会」をそのまま描いているわけではありませんが、田舎暮らしの心地よさ、家族や仲間と食卓を囲む楽しさ、いろんな農業スタイルがあるということ、食を生み出す生産現場と生産者の思いが、スクリーンを通して伝わってきます。

それだけ、現場ではリアリティを追求していたそうです。
「爪の間にまで土を入れたり、キャストの手を“農家の手”にしていくメイクさんには驚いた」(富樫さん)
「そうそう、僕のつなぎを見て、作業で汚れる場所を細かくチェックして、キャストのつなぎのひざ下に汚れをほどこしたり」(村上さん)。
「それに役者さんって器用だよね。古い農機具の操作方法を指導したんだけれど、使いこなすのが難しいの。それが本番になると何かが下りてきたように、できちゃうんだもの」(富樫さん)。
「自然相手だから、牛が動くのを待ったり、雲や太陽待ちの時間が結構あって、1日がんばって撮影しても、編集を加えるとわずか“5分”分にしかならないと聞いて驚きました」(村上さん)
「せたなで長期ロケだったこともありますが、キャスト同士、本当に仲が良くて。カメラが回っていない時でも楽しそうで。その空気感が映画からも伝わってくると思います」(ソガイさん)

このシリーズでは小道具や食材も役者と同じ“キャスト”ととらえ、北海道でつくられた思いのこもった食器や家具、食材が随所で使われています。ラストの野外レストランのシーンでは、おいしそうな料理がコース仕立てで登場しますが、こちらにも「やまの会」の食材が使われています。そして、「やまの会」のメンバー数人がエキストラとして出演!

最後に、映画を観る方へメッセージをいただきました。
「みんなで食を囲む楽しさだとか、せたなってきれいな町だなとか、いろんな農業があるんだなとか、映画を楽しんでもらって、食や農にも興味を持ってもらえると、うれしいなって思います。
今回は、たまたま僕らがモデルになったけれど、映画を観てくださる方の近くに、こういう生産者はきっといると思うので、そちらにも注目してほしいなって思うんです」。

いろいろな北海道愛が詰まった『そらのレストラン』は、2019年1月25日から全国ロードショー。ぜひご覧ください!
そして、季節が良くなったら、「やまの会」の食材を求め、せたな町にも遊びに来てください!
■関連サイト
・そらのレストラン・秀明ナチュラルファーム北海道
・村上牧場レプレラ
・シゼントトモニイキルコト
・せたな町
北海道Likersライター 小西由稀
撮影 / 北海道Likersフォトライター 髙田美奈子