サケの名前/アイヌ四季の暮らし(7)

「チュㇰ(小:ク)・チェㇷ゚(小:プ)=秋の魚」とも呼ばれるサケが、海から川へ遡上を始めると、もう秋です。「シペ=本当の食べ物=主食」とも呼んだのは、サケが昔のアイヌの生活に欠かせない食料だったからです。
 
「チェㇷ゚(小:プ)」は魚の総称ですが、単にチェㇷ゚(小:プ)という場合はサケを意味するのがふつうで、「カムイ・チェㇷ゚(小:プ)=神・魚」が一般的な呼び名です。これは秋になると必ず、越冬用の食料になるサケを神の国から下界へ送ってくれる、サケの神への感謝の気持ちが込められた呼び名だと思います。

 

 
そんな暮らしに密着したサケを、アイヌは多様な名前で呼びました。知里真志保博士の『分類アイヌ語辞典・動物編』には、一般的な名称に加えて、季節・海にいるとき・川へ入ってから・成長段階・性別・大きさなど、それぞれ呼び名の異なる80種の名前があげられています。
 
さらに、サケの保存処理法の違いによる名称として17種、サケを利用するための見分け方に伴う名称が36種も記録され、全部で133の名前が収録されています。これだけを見ても、アイヌの生活に占めるサケの重要性がよくわかります。
 
アイヌは、川は山から海に至るのではなく、海から山に向かって流れると考えました。川を生き物として捉え、河口が頭、水源が尻尾で、途中に手足が分かれ出ているとみなしたのです。サケやマスは子孫の生命を産みつけるために、海から水源のある(神のいる)山へ向かって川をさかのぼります。そしていったん上った魚は、再びこの道を通って海に帰ることがないからです。
 
 

 
 
神に向かって上る、あるいは神に向かっていくのだから、最初に川に入ったサケは、水源の守護神であるキタキツネやヒグマの神に贈られ、次に入ったサケは家をつかさどる火の神に贈られるとアイヌは考えました。
 
そのため、人間が最初に捕ったサケは、まず火の神に捧げて感謝し、それからコタン中に分けられました。これを、「アシㇼ(小:リ)・チェㇷ゚(小:プ)・ノミ=新しいサケの祈り」といい、昔はどのコタンでも秋の初めに行っていました。
 
※追記:文中のアイヌ語表記〈チュㇰ〉〈チェㇷ゚〉〈アシㇼ〉ですが、一部機種のバージョンによって文字化けします。〈チュㇰ〉は小さな「ク」、〈チェㇷ゚〉は小さな「プ」、〈アシㇼ〉は小さな「リ」となります(アイヌ語の表記)。

 
*記事は『北の彩時記―アイヌの世界へ』(計良光範著、コモンズ刊)をもとに作成。
http://www.commonsonline.co.jp/kitanosai..html
 
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