北海道情報サイト「北海道ライカーズ」北海道情報サイト「北海道ライカーズ」

what likers

Icon search探す

公開 | 木村健太郎

江戸期からの伝統技術を受け継ぎ北海道酒造業界を引っ張る“世界の男山”「男山株式会社」~北海道の酒蔵シリーズ(6)

旭川市の男山株式会社「男山」ブランドは旭川のみならず、全国、そして世界に知られた北海道で最も知名度のある清酒蔵でしょう。

その前身を含めると約350年の歴史を引き継ぐ老舗蔵。日本中には「○○男山」を名乗る銘柄は数多ありますが、「男山」の2文字だけを名乗っているのは、旭川の男山のみ!

その由来や歴史、日本に冠たる“世界の男山”の蔵としての技術、矜持などを探ってみました!
 
 
▲今年(2019年)2月10日の酒蔵開放。毎年12,000人もの男山ファンが訪れ大盛況となります!(写真提供・男山株式会社)
 
 

目次

・「男山」の由来と歴史
・高級酒もレギュラー酒も妥協なき男山の酒造り
・正統男山の誇り‐伝統の生酛(きもと)造りを継承


 

「男山」の由来と歴史

前述したように「男山」を冠した銘柄は全国に数多くあります。筆者の記憶するところでも「根知男山」(新潟)「千両男山」(岩手)「陸奥男山」(青森)「羽陽男山」(山形)等々。日本酒でポピュラーな銘柄名のひとつです。しかし、「男山」の二文字だけを名乗っているのは旭川市の男山のみ!不思議ですね~
 
 
▲北海道の清酒は?と言われると道外の方は「男山」の名を挙げる方が多いでしょう
 
 
そこで、男山の歴史をひも解いてみましょう。日本最初の清酒醸造は摂津伊丹(現・兵庫県伊丹市)で慶長5(1600)年に山中勝庵によって始められたとされています。伊丹は灘(現・兵庫県神戸市灘区)、京都・伏見とともに3大銘醸地となります。
 
男山は寛文年間(1661~73年)に初代・山本三右衛門が「木綿屋」の屋号を掲げ創業し、「男山」及び「七ツ梅」の醸造を始めました。「男山」の由来は木綿屋の遠祖が源氏の流れで、源義家を歓請した男山八幡宮(現・岩清水八幡宮)から名づけました。元禄10(1697)年、近衛家の「御免酒」、享保18(1733)年には徳川家8代将軍・吉宗の「御膳酒」となり名声を高め、江戸でも大人気の清酒となりました。
 
 
▲本蔵に併設されている「男山酒造り資料館」の歴史資料室では、江戸期からの男山の歴史がわかる貴重な文献などが展示されています
 
 
その名声は、喜多川歌麿や歌川国芳の浮世絵作品にも登場。また、忠臣蔵の討ち入り後に赤穂浪士が呑んだとされています。しかし、19世紀に入り、後継者に恵まれず、徐々に衰退し、明治中期には廃業の憂き目に遭いました。これが“男山本家”のおおまかな歴史です。その後、「○○男山」は全国の蔵が名乗るようになりました
 
 
▲資料館は古い酒造り道具が並べられ、昔の酒造りの工程などがひと目でわかります。インバウンドの観光客も増えていて、5ヶ国語のモニター放送も流れています。
 
 
▲1階の直営店は蔵元限定酒など含め多数の銘柄を試飲でき、外国人観光客でにぎわいます
 
 
男山は新潟県から札幌へ入植した初代・山崎興吉氏が酒造りの修業を終え明治20(1887)年に開業し、同32(1899)年、旧日本陸軍の第7師団創設に合わせ旭川市に移転しました。当時の会社名は「山崎酒造」で、「男山」の名を入れたのは昭和8(1933)年。「北海男山」として商品化していました。
 
 
転機は3代目・山崎興吉氏の昭和40年代。道内消費者の「内地志向」に対し、歴史の裏付けがないことが北海道清酒蔵の弱点と分析。男山のルーツを探ります。それにより男山を醸していた「木綿屋」山本三右衛門家31代目・山本良子さんを探し当て親交を結び、昭和43(1968)年、製法、印鑑商標一切の権限を引き継ぎ「男山」の正統後継者となったのです。
 
 
▲資料室に展示されている山本三右衛門家から引き継いだ印鑑等。男山正統の証です
 
 
同年には現在地の旭川市永山地区に移転し、「男山株式会社」と社名も変更しました。
ただ、「男山」は慣用商標のため、仮に他の蔵が銘柄に二文字「男山」を名乗っても法律的には問題なく、蔵としてもクレームを入れることは考えていないとか。
 
 
▲今年で移転51年目となる男山本蔵。旭川有数の観光スポットになりました
 
 
この“本家正統”を受け継いだことを契機に男山は北海道のみならず日本、世界へ飛び出し1977(昭和52)年、日本酒では初のモンドセレクション金賞に輝きました。1984(昭和59)年にはアメリカへの輸出を開始し、現在は20ヶ国以上へ輸出されていて“世界の男山”として羽ばたいています。

 

高級酒もレギュラー酒も妥協なき男山の酒造り

男山の現在の生産量は約7,000石(一升瓶換算70万本)。道内の清酒業界では断トツの生産量です。最盛期は25,000石といいますから、これでも量から質に時代が変わっていることが分かりますね。
 
 
▲「男山酒造り資料館」の2階からはガラス越しに醸造作業の見学もできます
 
 
男山で仕込みに使う米は1シーズンで約1万2,000俵(玄米で1俵60㎏)。そのうち2,500俵を北海道産酒造好適米の吟風、彗星、きたしずくを使用しています。主に北海道で流通させる銘柄には積極的に道産酒米を導入しています。
 
出品酒や大吟醸などのフラッグシップ級の銘柄に関しては、酒米の王様である兵庫県産「山田錦」や、近年まで北海道の酒蔵で定番だった「美山錦(みやまにしき)」などを使用しているとか。まだ生産量が決して多くない北海道の酒造好適米。北海道最大手の蔵としてはすぐに全量道産米を使うという訳にはいきません。
 
 
▲男山の製造部長・北村秀文杜氏。男山での酒造りは13年目。それ以前は現在、残念ながら銘柄しかなくなった小樽の「北の誉」にいました
 
 
北村杜氏は「道産酒米は我々が覚えてきた『山田錦』の造りとは別のものになるので、試行錯誤しています。でも北海道の酒米のレベルは上がってきているので特徴を生かした良い酒を造りたいですね」と話します。
 
 
▲道産米100%使用の「北の稲穂」シリーズ。特別純米、特別本醸造は北海道限定です。写真右は彗星の大吟醸で全国展開しています
 

これだけの生産量を誇りながら造りには一切の妥協はありません。高級酒(純米吟醸や吟、大吟醸系)に関しては、米を洗い(洗米)、蒸し(蒸米)、麹造りもレギュラー酒とは違い手作業で行い、繊細な作業が可能になる「小仕込み」を徹底しています。

「大吟醸などは、特に麹米に関しては洗米、吸水、蒸しを細かくやらなければいけません」と北村杜氏。テクノロジーの時代でも酒造りは最終的に人の官能も頼りです。
 平成30年度の「全国新酒鑑評会」でも金賞受賞と、醸造技術は折り紙つきです。
 


▲甑(こしき)かと思いましたが、麹蓋(こうじぶた)を消毒しているようです
 
 
▲大吟醸の麹をかける前の蒸米を冷ましているところ。麹室もレギュラー酒とは分かれています


▲これは鑑評会出品酒用の醪(もろみ)で、35%精米の山田錦です。えも言われぬ上品で甘やかな香りが漂います
 
 
もちろん、日常で飲むレギュラー酒にも妥協はありません。スーパーなどで販売されている普通酒(醸造アルコール添加酒)にも、糖類添加は一切していません。「日常的に飲むなら、うちの『上撰 男山』は美味しいですよ」と北村杜氏は自信を持って話してくれました。


▲毎日の晩酌酒としてオススメの「上撰 男山」。普通酒ですがスッキリと飲めます。オールドファンに受けそうです

 

正統男山の誇り‐伝統の生酛(きもと)造りを継承

男山が伝統的に大事にしている「生酛(きもと)造り」で、「生酛純米」は看板酒のひとつ。「長いことやっていますが、これからも続けていきますし、いかに進化させるかが大事だと思います」と北村杜氏。
 
 
▲独特の酸と米の旨みやコクが味わえる「男山 生酛純米」。食中酒として全国的に人気です
 
 
生酛造りは日本酒ファン以外には馴染みがないと思いますが、江戸時代から明治中期まで主流だった最も伝統的な酒造りです。
 
まず日本酒の醪を生成するためには麹、蒸米、水によって酒母(しゅぼ)を作り酵母を培養します。酒母タンクには作業上どうしても空気中の雑菌や野生酵母が混入しやすくなります。そのためそれらを食べてくれる乳酸を加えていきます。
 
この時、人工的な乳酸を加えるのではなく、蔵に生息している天然の乳酸菌を取り込んで生成する乳酸で雑菌や野生酵母を死滅させ、自然な発酵につなげるのが「生酛造り」です。現在の清酒造りはほとんどが明治43(1910)年に開発された、人工的な乳酸を加える「速醸酛(そくじょうもと)」で造られています。
 
 
▲こちらは生酛ではないですが吟風(ぎんぷう)純米の醪が泡だっています。乳酸と酵母の複雑でし烈な生存競争が行われているのです!
 
 
生酛造りの特徴として、醪の中で乳酸菌や酵母の生存競争が激しくなり、その結果、生き残った酵母の生命力が強くなり、しっかりと発酵します。そのため乳酸発酵由来の心地よい酸味と爽やかなキレ、きめ細やかさとしっかりした米の旨みを感じられる腰の強い酒になります。
 
しかし、自然の力を生かすため腐造(ふぞう、酒がくさること)の可能性が高くなり、酒母を作るための「山卸し(やまおろし)」という蒸米、水、麹を摺合せる作業が蔵人にとっては過酷な労働になるため、速醸酛が主流となった経緯もあります。
 
 
▲取材日はちょうど生酛純米を搾っていました。濾過も火入れもしない生原酒です。試飲すると、甘酸っぱい白ワインのような現代的な味わい!
 
 
▲直売店では当日搾った酒を「今朝ノ酒」としてその日限定で販売しています。これぞ幻の酒!
 
 
男山は、本家からの技術と伝統を今後もしっかり受け継いでいくつもりです。代表酒である生酛純米を北村杜氏は「合わせる食事の幅も広いです。30~35度のぬる燗で飲むと特に旨みが味わえます」と勧めてくれました。
 
生酛造りは北海道では男山の専売特許のようなものでした。現在はチャレンジする蔵もでてきましたが、造りの知識や経験が必要なため、簡単には商品化できません。まさに、伝統を引き継いだ男山が成せる業と言えるでしょう。
 
初心者の方に説明すると、生酛の味わいは極端に言えば道産子お馴染み「カツゲン」のような乳酸系の酸味があります。男山の生酛は、現代の嗜好に合わせ少しずつ酒質を変えているそうです。好みは別れると思いますが、ぜひ試してみて!
 
 
▲大雪山系の伏流水を井戸からくみ上げ濾過機で炭素濾過し、塩素消毒も行い衛生面も万全!保健所の審査を通ってから塩素を抜いて仕込み水となります
 
 
▲市民が毎日汲みにくる水も安全に処理された仕込み水です
 
 
北村杜氏は「今後は高級酒で培っている技術を今以上にレギュラー酒にも落としこんでいきたいですね」と蔵全体の酒質底上げを図る考えです。平成が終わり新時代となっても地に足を付けた北海道の地酒であり、かつ“世界の男山”は揺るぎない王道を貫いていくでしょう。
 
この記事をSNSでシェアしよう!
  • 江戸期からの伝統技術を受け継ぎ北海道酒造業界を引っ張る“世界の男山”「男山株式会社」~北海道の酒蔵シリーズ(6)
Title
Close