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公開 | 小西 由稀

「農」の価値とカタチ①「食のきずなを育む会」近江正隆さんと「黒田農場」の黒田栄継さん500da714 faab 40a3 988a 49088cf2d731

「食のきずなを育む会」近江正隆さんと「黒田農場」の黒田栄継さん


「農家」「農業」「農村」って何でしょう?
 
野菜をつくる人、農作物を栽培する仕事、農家が集まる地域。
恐らく、多くの人が同様の言葉を思い浮かべたのではないでしょうか。
 
どれも正しいのですが、それだけではありません。多面的な「農」の役割や魅力を、「ホームステイ」というカタチで伝えている人がいます。
 

伝えることの大切さに気づいたきっかけ

十勝エリアでは2010年から、大阪・東京を中心に修学旅行の高校生を一泊で受け入れる「とかち農村ホームステイ」を行っています。今では年間3000人、延べ2万人の高校生が十勝の農家で過ごす、大人気のプログラムです。


とかち農村ホームステイ 

 
―ホームステイの事務局を務めるNPO法人「食のきずなを育む会」の近江正隆さん、そして受け入れる「黒田農場」の黒田栄継さん。このプログラムを始める、参加するきっかけを教えてください。
 
近江さん(以下、近江):東京生まれ育ちの私は、北海道の大自然にあこがれて十勝に移住。酪農実習で1年、漁師を17年間させてもらいました。
 

「食のきずなを育む会」近江正隆さん▲近江正隆さん。NPO法人「食のきずなを育む会」事務局長。東京都出身、北海道浦幌町在住。酪農・漁業を経て、ホームステイ事業、内閣府地域活性伝道師、文科省食育有識者委員などを歴任、消費者と生産者をつなぐ仕事にかかわる。
 
 
生産の現場で働いているうちに、生きていく糧を生み出す農業、漁業の大切さをあらためて実感。それと同じく、「協同組合」に象徴されるように、1人ひとりは自立しているのに、みんなで助け合っているという、現代社会が忘れかけている価値観にもふれたんです。
 
多様な価値を伝えたいと、ECショップや都心での食イベントなどを行ってきましたが、「もの」の売買を通しての交流には限界を感じていました。
 

近江さんと黒田さん
 
 
都会にだけいると、農家、農業、農村のことがよくわからない。でも、単に農村に行って体験するだけでは十分に伝わらない。リアルにイメージできる存在になってはじめて、大切なことが伝わるのではないだろうか。
 
そう考え、たどり着いたのが、家族のようなつながりを生み出すホームステイでした。黒田さんをはじめ、一緒に活動してくれる生産者との出会いもあり、良い化学変化が起こったのだと思います。
 
黒田さん:(以下、黒田):僕らは、食べてくれる人がいないと成り立たない仕事。なので、いかに消費者とつながるか、農業を知ってもらうかという取り組みをしてきました。農作業体験や食育など、一定の成果はあるだろうけれど、大きな変化につながる実感がわかない。
 

黒田さん▲黒田栄継さん。黒田農場4代目。北海道芽室町生まれ。愛媛大学を卒業後、就農。JAめむろ青年部部長、北海道農協青年部協議会会長、平成26年度JA全青協会長などを歴任。
 
 
そんな時に、消費者団体のみなさんとの意見交換会でこんなことを言われたんです。「農家は自分たちが食べるものは無農薬で、出荷するものは農薬をかけるって本当ですか?」と。
 
「いやいやそんな無責任なことはしません。農家が公開している栽培履歴をご覧になったことはありますか?」「あることさえ知りませんでした」というやり取りに。
 

初夏の黒田農場
 
 
そこで思ったのは、お互いのことを知らな過ぎるな、と。あまりにも距離が開きすぎて、互いのことをイメージすらできない。ここを埋めないことには、取り組みの答えは出ない。それをやるのは僕ら世代の仕事だと思いました。
 
ここを開拓した爺ちゃん、曾爺ちゃん、そして親父世代、それぞれの苦労を思えば、僕ら世代はそこにのっかってやらせてもらっているようなもの。
昔の農業にはなかったことだけれど、「伝える」ことは、今の農業において大切な仕事のひとつ。一歩踏み込んだ取り組みとして、ホームステイ事業に参加した経緯があります。

 

ありのままの生活体験と高校生の涙
心がゆるやかにほぐれる農村の価値



近江さんと黒田さん
 
 
―ホームステイではどんなことをしているのですか?
 
近江:修学旅行の1泊を農村でホームステイし、ありのままの農家の生活に溶け込ませてもらう…というものです。受け入れ側への決まったルールはなく、強いて言えばお客さんではなく、娘や息子、孫のように受け入れてもらっています。
 
最初は農業を理解してもらう手段として考えていましたが、高校生の反応から、どうもそれだけではない価値がここにはあると気づきました。多くの高校生が帰る時に泣くんです。たった1泊の滞在なのに。
 

とかち農村ホームステイ
 
 
都会の子どもは防犯の面から、他人と接しないように育てられています。それは必要なことですが、一方で社会は他人の集合体。自分も集合体の一員だとすると、他人を信じられないなら、自分も社会から信じられていない。
日本の若者の自己肯定感が低いのは、こんな社会背景が影響しているという見方もできると思うんです。
 

近江さん
 
 
それが十勝に来ると、赤の他人である農家さんたちが家族のように受け入れてくれる。彼らにすると、初めて信じられる他人に出会ったのではないか。そこがうれしくて、離れたくなくて、涙として表れるのではないか。都会では教わりにくくなっていることを、農村なら伝えられる。そんな役割が農村にはあるんです。
 
黒田:最初はびっくりしました。本当に泣く子が多いんです。特別なことはしていませんよ。普通のごはんを一緒に食べ、その時々の農作業を手伝ってもらったり、何気ない会話をしたり。寝食を共にするって、重要なことなんですね。
 

ホームステイの高校生がぶどうの棚を制作▲黒田農園の一角にあるブドウ畑の支柱は、高校生がアイデアを凝らし立てたもの
 
 
都会から来る高校生は「土が黒い」「空が横にある」など、感動するポイントが新鮮に映ります。高校生も感じる、学ぶことが多いと思いますが、こちらも学ばせてもらうことは多い。
 
ホームステイで彼らの何が変わるかというと、みんながちょっとずつ優しくなること。食糧をつくるのは、農村の目に見える役割ですが、ここにはそういう力があるんでしょうね。
 

とかち農村ホームステイ
 
 
―農村にはなぜ“そういう力”が残っているのでしょう?
 
黒田:ひとつには、僕らの仕事が自分の思う通りにいかない仕事だということ。例えば2年前の災害、1年間必死に歯を食いしばってやってきてことが、たった1週間の雨ですべてがなくなってしまった。何年かに1回は痛感させられます。
 
そういうところで生きているからこそ、具体的に行動に起こさなくても、“互いに思い合う、助け合う大切さ”を知っている訳です。それに、同業者が近所にこんなにいる環境ってないですよね。同じところを同じように悩んでいる。だからつながりやすい。


 黒田さん
 

そういえば、「農家の人って助け合っているんですね」といわれて、びっくりしたことがありました。特にそういう場面があったのではなく、その子なりに感じた部分があったんでしょうね。
 
近江:人が生きていくために大事な気づきを得られる農村の価値は、今後ますます高まっていくでしょうね。都会が長けていること、できないこと、そして農村漁村が長けていること、できないことを互いに認め合い、補い合っていければいいなぁと思います。

 

伝える、つなぐ、結ぶ
100年先に向けた種まきを

―ホームステイのプログラムを通して、受け入れ側が得たものとは何でしょうか?

 
近江さんと黒田さん
 
  
黒田:同じものをつくるなら、よりおいしくつくろうと思うようになりました。以前から自信を持ってつくっているんですよ。でも、自分の野菜を目の前で食べて「おいしい」といわれることって、農家はほとんどないんですよ。喜んでくれる人がいる。その経験がモチベーションになります。
 

とかち農村ホームステイ
 
 
近江:これは予測していなかったことですが、ホームステイ体験から酪農家を目指す子、帯広畜産大学に進学する子、食のきずなを育む会の事務局に就職して今度はホスト側になる子など、主体的な思いで十勝に来てくれる子が増えているんです。
 
農村に人をつないでいくことは、地域活性化の面でもうれしい話。ホームステイにもさまざまな役割があるのだと、あらたな気づきをもらっています。
 
 
―今後に向けて、最後にひとことお願いします。
 

近江さんと黒田さん
 
 
近江:今は高校生向けのホームステイ・プログラムですが、これから社会人としてがんばる世代、社会の中でステップアップを考えている世代に向けても、何かやりたいですよね。
 
次代を担う、熱い想いを持つ生産者がいることは北海道の財産。そんなことを知ってもらうと、新たな刺激や気づきの場になると思うんです。
 
黒田:以前は農業に携わろうとしても門戸が広くないイメージもありましたが、最近は農業界への入口の選択肢(※)が増えているので、気になる方はどんどんアクションしてほしいですね。
 
僕らは自信と誇りを持って、自分たちの役割を果たしていこうと思っています。役割のひとつが、伝えることです。農家の仕事は種をまいて、収穫すること。だったら、100年先に向けた種まきをしていくのが、今なのだと思います。
 
※農業を志す方には就農支援の窓口、農業生産法人や農作業をサポートする組織があります。また、地域の農協など、農業を支える組織・団体も多数あります。
 

黒田農場

 

関連サイト

黒田さんが所属する「なまら十勝野」
近江さんのFBページ
JAグループ北海道

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小西 由稀

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