2017年11月02日 | 小西 由稀

自然の中から色と笑顔を紡ぐ、手作りクレヨン工房「トナカイ」

手作りクレヨン工房トナカイの看板


天然素材100%でクレヨンをつくる女性がいる。
そう聞いてから、工房を訪ねてみたい、お話を聞いてみたい、どんな色合いなのか見てみたいと、ずっと思っていました。今年の夏の終わり、その願いが叶い、手作りクレヨン工房「Tuna-Kai(トナカイ)」のオーナー、伊藤朋子さんに会いに行ってきました。
 
北海道の東部にある標茶町。その町はずれに手作りクレヨン工房トナカイはあります。伊藤さんは2011年からクレヨンの販売を始め、2012年にショップをオープンしました。
 

手作りクレヨン工房「トナカイ」のオーナー伊藤朋子さん▲手作りクレヨン工房トナカイのオーナー、伊藤朋子さん。岡山県の出身
 

店内には20色のクレヨンが並び、試し描きできるようになっています。トナカイのクレヨンはすべて天然素材でできていて、木や花、根、土などから得た顔料に、蜜蝋などを混ぜてつくられます。おなじみの鮮やかな色調のクレヨンとは異なり、どこか素朴で控えめな印象です。
 

トナカイのクレヨン20色▲工房名のTuna-Kai(トナカイ)はアイヌ語。Tuna(テゥナ:モノを運ぶ)、Kai(カイ:家畜)という意味なのだそう
 

伊藤さんがクレヨンづくりを始めるきっかけは、化学物質過敏症の少年との出会いにありました。
 
「『絵を描いたことがない』という、小学校1年生の男の子でした。化学物質過敏症の彼は、原料に石油系の化学物質が含まれている市販の画材を使うことができなかったんです。当時、私は草木染めをやっていたので、その技術を応用し、彼のような子どもたちのために天然の植物で画材をつくれないか、そう思ったんです」。
 

素材になる草花のイメージ
 

ところが、事はそう簡単ではありませんでした。ヨーロッパでつくられていた昔のクレヨンのレシピはあったものの、色のベースとなる顔料づくり、それをどう成型するのかなど、試作を重ねるほど問題は山積。仕事と子育ての合間に試行錯誤を繰り返し、10年かけて完成したのが、このかわいらしいクレヨンです。
 

トナカイのクレヨン▲材料を集め、顔料をつくり、蜜蝋などを混ぜて固まるまで、実に2ヵ月近くかかる労作

 

単なる「絵を描く道具」ではない
自然の色が届ける癒しの時間

トナカイのクレヨンの大きな魅力は、天然素材であること。春に工房の周囲に咲くコウリンタンポポやエゾヨモギ、秋には山のオニグルミやドングリ、オホーツク海でとれるホタテの貝殻、黒土や黄土など、身近な自然からいただいた色ばかりです。
 

トナカイのクレヨンの原料は自然の植物など
 

もうひとつ特徴的なのは、色の名前ではなく、由来となる原料の名前が記されていること。
 
「色覚障がいのあるお子さんを持つお母さんからメールをいただきました。一般的なクレヨンは赤・青・黄といった表記なので、名称と色を結びつけることのできないそのお子さんは、幼稚園のお絵描きで人の髪の毛を紫色に塗って、先生に怒られたそうです。精神状態まで疑われて、それ以来、絵を描かなくなってしまったそうなんです。
 

インタビューに応えるクレヨンのオーナー、伊藤さん
 

それが、うちのクレヨンは色の名称ではないから安心して使えると、『10年ぶりに絵を描いてくれた』という内容でした。また、大人の方からも、『天然素材のやさしい色合いに癒される』という感想もよくいただきます。
化学物質過敏症の男の子との出会いからつくり始めたクレヨンですが、いろんな反響があって、単なる『絵を描く道具』ではないのだなぁと、思いを新たにしました」。
 

トナカイのクレヨンは色の名称ではなく、原料の名称
 

店内には、感想とともに全国から寄せられたトナカイのクレヨンで描かれた絵が展示され、見る人を和やかな気持ちにしてくれます。
 

全国のファンから届いた絵▲店内に貼られていた絵の一部。伊藤さんはクレヨンづくりのほか、子どもを対象にしたワークショップなどの活動も行っている

 

牛のフンからも色が生まれる?!
自然から色をいただく仕事の面白さ

ふとした疑問が浮かびました。北海道にはラベンダーの花、ひまわりの花、ハマナスの花など、鮮やかな色合いの植物が多いので、もっと色数がつくれそうな気がするのですが…。
 
「ひとの目に見えている色と顔料にした時の色は、実は同じではないんです。クレヨンにするとさらに色が変わるものも多い。例えば、ルピナスの紫色の花は、顔料にすると緑色になり、クレヨンに仕上げるとレモンイエローに。不思議ですよね」。
えー、それは驚きです!
 

クレヨンの元になる顔料
 

「これまで50~60種類の材料で試作して、ようやく販売用の20色ができあがったという感覚なんです。北海道の植物を原料にすると、どうしても黄色、茶色、黄土色が多くなるという傾向にあります。今はとにかく実験の毎日です」。
 
「緑色って、単独で出すのがすごく難しい色なんです。普段はエンジュの黄色と藍の青色を混ぜて表現したりするのですが、単独で緑色になり、クレヨンにしても緑色のままで描けるあるモノを見つけたんです!」。伊藤さんはそういって、ニヤリと笑います。
 

中央の放牧と書いてある顔料の原料は牛のウンチ

 
“放牧”というラベルが貼られた容器には美しい緑の顔料が。もしや、放牧といえば…。
 
「そうです、牛のウンチです。牧草そのままでは緑色にならないのですが、ウンチになると緑色が出せるのです。しかも、いわゆるホカホカでなければダメです。顔料を取り出す際は煮出すので、相当臭いのですが(笑)、顔料になってしまえば臭いません」。
 
牛のウンチクレヨンは、伊藤さんが協力をしている『十勝色クレヨン』(十勝産のものでクレヨンをつくる)の活動で、ある酪農家の「牛のウンチは何色になるのだろう?」という興味からできあがったものだそう。※大腸菌群は検査済み、陰性。
 
この話を聞いた近隣の羊農家さんや馬を飼う人から「ぜひうちのを使ってみて」と、リクエストが来ているのだとか。また、熊のフンでもつくりたいという夢はあるものの、「“したて”じゃないとできないため、誰が命を懸け取ってくるのかという問題があり、なかなか実現しません(笑)」。


クレヨンの店内
 

自らの仕事を「自然から色をいただく仕事」と語る伊藤さん。「トナカイのクレヨンは生活の中では脇役ですが、単に絵を描くための画材ではなく、笑顔を届けるプレゼントなのだと思っています」。
 
ショップは毎年GW~11月上旬の営業ですが、通年ネット販売しているので、ぜひ!今年のクリスマスプレゼントにいかがでしょう?
 
※トナカイのクレヨンの使用対象は、3歳児以上です。「2歳以下のお子さんの場合、大人の方と一緒に使ってもらい、口に入れないように見守っていただければと思います」と、伊藤さん。
 

クルミの殻やどんぐりの帽子に入れた固形の絵の具も▲クルミの殻やどんぐりの帽子に入った固形の絵の具もある

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小西 由稀

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