2017年08月10日 | うずらはしちあき

情熱の仕事人。“枠”を超えた世界へ。漫画家「ヤマザキマリ」

千歳の青葉公園で笑顔でたたずむ漫画家のヤマザキマリさん

人気漫画『テルマエ・ロマエ』の作者、ヤマザキマリさん。世界各国を渡り歩き、現在はイタリアと日本を行き来しながら活動しています。ご自身が育った北海道・千歳市で、お話をうかがう機会を得ました。

 

自然の中を遊びまわり、千歳を発って14歳で海外一人旅

「空がとても広く、空港があって開かれた千歳は、どこかに行きたくなる場所。ユーラシア大陸最西端のロカ岬とか、ポルトガルの大西洋側に行くと、この先に何があるんだろうと。千歳にも似たものがありますね」。
世界を知るヤマザキさんから見て千歳はどんな土地かと聞くと、そう返ってきました。
 
4歳の頃に東京から千歳に移り住み、中学卒業までの日々を過ごしました。市街地を流れる千歳川や自然豊かな青葉公園などを遊び場にして、魚やエビを捕まえ、木登りや虫捕りをし、あるときは20数キロ先の支笏湖まで自転車を走らせました。
 
「遊びというよりもアドベンチャーでしたね」。目的はいつも、行っていいと決められた範囲の“外”にありました。


千歳の青葉公園を歩く漫画家のヤマザキマリさん▲ヤマザキマリさん 1967年生まれ、東京都出身:17歳で渡伊、フィレンツェの美術学校で美術史と油絵を学ぶ。1997年、漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』は、2010年に「マンガ大賞2010」と「第14回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞し、大ベストセラーに


男の子に混じって外を駆け回る一方で、絵を描き、本を読みました。その頃は、虫や鳥や動物の絵を物語と一緒に描いていたといいます。
 
白いスペースを見ると描いてしまうというヤマザキさんにとって、絵を描くことは好きという以前にもっと本能的に組み込まれたものでした。「私は大人になっても、絵を描いているしかないだろうなと」。
 
14歳のときに一人、フランスとドイツへ。この旅が、その後の人生に大きな影響をもたらします。送り出したのは母親でした。
 
ヴィオラ奏者として札幌交響楽団に在籍し、やりたかった音楽で生きる母親を、ヤマザキさんは「“普通はこう”というのにとらわれない人」といいます。

「進路相談で絵をやりたいと担任の先生にいうと、将来路頭に迷うことになると。でも母だって不安定ながらも音楽でちゃんと食べているわけで。世間の判断と家の中とに差異があって悩んでいる私に、母は気づいていたんでしょう。旅の最後の目的地がルーヴル美術館でした。ルーヴルに行って、私は絵をやっていいんだと思えたので、ヨーロッパを旅させたのは、母のひとつの教育方針だったんだろうなと思います」。

 

17歳で単身イタリアへ。食べていくために漫画家に

千歳市青葉公園にて漫画家ヤマザキマリさん


17歳で単身イタリアへ渡り、画学生に。このイタリア行きは、先の旅でマルコさんというイタリア人のおじいさんと出会ったことがきっかけでした。
 
高校生になり再び進路に悩んでいたヤマザキさんは、絵描きではなく通訳者を目指そうとしていました。マルコおじいさんとペンフレンドになっていた母親が、そのことを手紙で伝えると、マルコおじいさんから「マリは絵描きになりたかったんじゃないのか。とりあえずイタリアへ寄こしなさい」と返ってきたそうです。「すべて水面下で仕込まれていましたね」とヤマザキさん。
 
イタリアでは、恋人の詩人と一緒に暮らしていました。「経済的生産性のない人」だったことから、ヤマザキさんがアルバイトをして生活を支えました。「アパートは電気が点かない、水も出ない。貧乏なものだからインフラが止まるんです」。そう当時を笑って振り返ります。
 
同棲11年目に妊娠。「2人も面倒を見られない」と詩人と別れ、シングルマザーになる選択をしました。出産後、ヤマザキさんは美術学校の友人の勧めで漫画を描き始めます。
 
「油絵を描いていても需要に結びつかない。漫画家という職業に就いたのは、息子を育てていくためです。漫画に興味があったわけではないですが、描いていて負担にならない。自分に合っていることで食べていけるならと思って」。
 
漫画家デビューしたとはいえ、すぐにそれだけで食べていけるわけでもなく、北海道に戻り、札幌の大学でイタリア語を教えたり、テレビ番組の温泉リポーターをしたりと、何本も仕事を掛け待ちしながら子育てをしました。


千歳市の青葉公園にて漫画家のヤマザキマリさん▲ゆかりの青葉公園にて。「千歳にいると天真爛漫な子供の頃の自分が思い浮かんできますね」


そして、ヤマザキさんは再び日本を離れることになります。
「古代ローマのこととか歴史の話をたくさんできる初めての人で。こういう人と一緒なら、インスピレーションが湧くかなと」。子供を連れ、35歳のときに結婚。お相手は比較文学を研究する14歳年下のイタリア人。マルコおじいさんのお孫さんです。
 
ご主人の留学先だったエジプトのカイロのイタリア大使館で式を挙げ、その後、シリア、ポルトガル、アメリカと世界を転々。シリアに移った頃、漫画を描くことだけに時間が取れるように。「それまでいくつもあった蛇口をひとつに集約できたことで、すごく集中できました」。

 

『テルマエ・ロマエ』。奇想天外な発想はどこから?!

代表作『テルマエ・ロマエ』は、古代ローマ帝国の浴場設計技師の主人公が、古代ローマと現代の日本を行き来し、日本の風呂文化をローマに持ち込んで理想の公衆浴場を建設していくという風呂漫画。シリアでの生活が、この作品を描く大きなきっかけになったそうです。
 
「シリアには古代ローマ遺跡があって、そこに遊牧民の人たちが住んでいるんです。もうそれはすごいタイムスリップ感で、古代ローマにきたみたい!っていうリアルな感覚がありました」。


漫画テルマエ・ロマエの単行本表紙▲テルマエ・ロマエ 著者:ヤマザキマリ 発行:KADOKAWA  単行本は全6巻。※書影提供:KADOKAWA


もともとお風呂好きというヤマザキさんですが、湯船に浸かれない生活が長くなっていました。ポルトガルの自宅でアイロン掛けをしていたとき、ふっと浮かんだそうです。
 
「日本の銭湯にいきたいなという思いと、その銭湯から古代ローマ人が出てきたらおかしいなと。それをまず絵に描いて漫画家の友達に見せたら、げらげら笑って『マリ、バカ』って。これで話をつくったら面白いかもねと。古代ローマ遺跡のある土地に暮らしてきたことや、湯船に入れない悔しさのようなものや、そういうものが混じり合って化学反応を起こしたんですね」。
 
現在は漫画家とり・みきさんとの合作による、古代ローマの博物学者プリニウスを主人公にした歴史伝奇ロマン『プリニウス』を新潮45(新潮社)にて連載中です。単行本は現在、第5巻まで刊行されています。


漫画プリニウス単行本表紙▲プリニウス 著者:ヤマザキマリ / とり・みき 発行:新潮社 ※書影提供:新潮社 ©Mari Yamazaki,Tori Miki


また、ヤマザキさんは、小学生時代の思い出をもとに『ルミとマヤとその周辺』という作品も描いています。


漫画ルミとマヤとその周辺1巻と2巻▲[新装版]ルミとマヤとその周辺 著者:ヤマザキマリ 発行:講談社 新装版は全2巻

 

馴染み深い千歳のお菓子と温泉

 イタリアと日本を1カ月おきに行き来して活動するヤマザキさん。今も千歳に母親が暮らし、北海道にはイベントなどでも訪れる機会があります。
 
千歳のお菓子工房「もりもと」のロングセラー商品、ブッセケーキの「雪鶴」は、子供の頃から食べていたという思い入れのあるおやつ。パッケージの鶴のイラストは、ヤマザキさんによる描き下ろしだそうです。
 
「母のお弟子さんが持ってきてくれる包みが、高い確率で雪鶴でした。そのおいしさたるやですよ。小さい頃は、おこづかいでは買えなかった“大人のお菓子”というような存在。中学生になると、お店の通りが通学路だったので友達と買って食べていました。どうしても今日は雪鶴が食べたい!という日があるんですよ」。
 

千歳もりもとのロングセラー商品、ブッセケーケーキ「雪鶴」▲千歳の銘菓として長く愛されている「雪鶴」。ハスカップクリームや、ばたーくりーむなどがある


また、支笏湖畔の丸駒温泉旅館も馴染みの深い場所といいます。
「丸駒温泉の常務が同級生で。温泉にはうちの息子も小さいときから入らせてもらっています。ロケーションがいいですよね。露天風呂と湖がつながっていて、運がよければちょうどいい水位で入れる。それもまた楽しいじゃないですか」。
 
ヤマザキさんはとり・みきさんと「とりマリ&エゴサーチャーズ」というバンドを組んでライブ活動もしています。ヤマザキさんが、ボサノバやジャズ、日本のポップスのアレンジ曲などを4カ国語で歌いあげるボーカルを担当。これまで丸駒温泉旅館でもライブイベントが開催されています。


漫画家ヤマザキマリさんと、とり・みきさんのバンド、とりマリ&エゴサーチャーズの皆さん▲6月に行われた、もりもと×丸駒温泉presents「とりマリの秘湯でほっこり&ライブツアー」より ※写真提供:もりもと


「こうしようというルートがまったくなく、なんとなく鼻を効かせてこっちにいったほうがいいかなと生きてきた」とヤマザキさんは語り、そして続けます。
 
「父は私が小さい頃に他界し、札幌のオーケストラに勤めていた母はいつも忙しくて家を空けることが多く、さみしい状況ではありました。でも千歳の自然のおかげで、私は元気に育つことができた。その恩恵に感謝しています。千歳、北海道という土地と仲良くしていたいですね」。
 
生き方そのものが、アドベンチャーの連続のようなヤマザキさん。それを伝えると、「きっとこの先もこんな感じでしょうね」と笑って応えてくれました。

 

関連リンク

ヤマザキマリ公式ホームページ
ヤマザキマリ・Instagram
もりもと
丸駒温泉旅館

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