千秋庵総本家の「どらやき」~ほっかいどうお菓子グラフィティー(10)

北海道で古くから親しまれる「千秋庵」は、のれん分けで全道各地に広がった菓子店。かつては小樽や旭川、釧路にもありましたが、現在は、札幌千秋庵と旧帯広千秋庵(昭和52年、「六花亭」に社名変更)、そしてそのルーツとなった函館の「千秋庵総本家」の3社が健在です。
 
北海道に菓子づくりの技術を広めた千秋庵総本家は、万延元(1860)年に函館で創業。秋田藩士だった初代は、函館を訪れて海産物の仲買などをしていましたが、やがて「こんぶ菓子」を創案。これをきっかけに菓子店をはじめます。屋号は初代の故郷である秋田をしのんでつけられました。

 

 
その函館・千秋庵総本家を代表する和菓子が「どらやき」です。〝皮〟が命といわれるどらやきですが、千秋庵総本家のどらやきは皮が絶妙なキツネ色に焼かれ、見惚れるほど。しかも、しっとりと柔らかく仕上げられています。
 
味の秘訣は、前の晩と翌朝の二段階で仕込む「宵ごね」にあります。その生地を手作業で蒸し焼きにして、しっとり感を生み出しているのです。さらに挟まれる粒餡は、道南産のアカネ大納言を使い3日もかけて仕込んだもの。くどさのない甘みが、上品なあと味を生んでいます。

 

 
そんな和菓子の技は、3代目がかつて東京で教えを受けた松田咲太郎が伝えたもの。菓子づくりの名人と謳われた咲太郎は、3代目に乞われて函館を訪れますが、直後に発生した関東大震災で東京が壊滅状態となり、そのまま千秋庵総本家の4代目として函館に留まることになりました。
 
咲太郎が北海道の菓子界に残した足跡は大きく、大正10(1921)年に小樽千秋庵の職長が独立して札幌千秋庵を開業。その札幌千秋庵からも職人が次々と独立して、菓子作りの技を道内に広めていきました。
 
いまも、道内最古参の菓子店として、歴史ある重厚な造りの店舗を函館市内に構える千秋庵総本家。季節を彩る和菓子の魅力もさることながら、美しい皮を眺めるだけで幸せな気持ちになれるどらやきは、平成22(2010)年に創業150年を迎えた老舗にふさわしい「食」の北海道遺産です。
 
 
 
 
*詳しくは『ほっかいどうお菓子グラフィティー』(塚田敏信・著)をご覧ください。