農業をしながら絵を描き続けた男。「神田日勝記念美術館」



 「神田日勝」という画家を知っていますか?名前でピンとこなくても、絵を見たら「見たことある!」という人も多いのではないでしょうか。32歳という若さで急逝した、画家であり農民でもあった神田日勝に会うため、十勝鹿追町の「神田日勝記念美術館」に行ってきました。

 

開拓農民で画家でもある、神田日勝

神田日勝(かんだ にっしょう)は、1937年東京生まれ。北海道へは1945年、疎開のためにやってきました。鹿追に着いたのは終戦前日の8月14日。農業経験は全くありませんでしたが、開拓農民としてそのまま鹿追の地に根を下ろしました。やがて、農業をしながら、元々興味があった油絵に取り組むようになりました。
 


 

神田日勝の絵の大きな特徴は、キャンバスではなくベニヤにペインティングナイフを使って描くという独自の画法です。そして初期の頃は、こげ茶色を多く使っていたので、ベニヤの素材感とこげ茶色が、十勝の大地に根ざした「農民画家」という印象をとても強く感じます。が、本人は「農民画家」と言われるのは、あまり好きではなかったそうです。
 

 

1970年に病気のため32歳という若さで急逝するまで、さまざまな絵を描きました。まるで畑の土や鹿追の大地を思い起こさせるようなこげ茶ベースの馬の絵を描いたかと思えば、アメリカのポップアートのようにカラフルな作品や部屋の中で体育座りをする人など、同じ作家が描いたとは思えないくらい、作風が異なるものを残しています。
神田日勝記念美術館には、ベニヤに描いた作風の異なる油彩作品の他、素描や遺品の数々なども展示されており、たっぷりと神田日勝ワールドに浸ることができます。

 

神田日勝の代名詞ともいえる、絶筆「馬」

神田日勝の代名詞ともいえるのが絶筆「馬」ではないでしょうか。彼は、これを描いている途中に急逝したため、この「馬」は絶筆として有名です。「馬」は美術館のアイコンにもなっています。
 


※提供写真:神田日勝記念美術館(神田ミサ子氏)
 

ベニヤに描かれた馬の絵です。全体をおおまかに描いてから細かく仕上げていくのではなく、顔の部分から順番に、脚、胴体と仕上げていくのは彼独特の画法だそうです。
私、北海道Likersライター チバタカコは、学生の時に初めてこの絵を北海道立近代美術館で見ました。絵心など全くありませんが、それでもこの絵から北海道の農地開拓の厳しさ、農耕馬の力強さ、土臭さを強く感じたのを覚えています。感じ方は人それぞれですが、久しぶりに本物を目の前にして、神田日勝は北海道の鹿追に来ることがなかったら、全く違う画風になっていたかもしれない、十勝鹿追という大地がこの絵を神田日勝に描かせたのかもしれない、と思いました。
 


 

この「馬」は、神田日勝を代表する作品なので、館内に入ったら真っ先に見たくなりますが、せっかく美術館へ行ったなら、そこは焦らずに神田ワールド満開の館内を堪能しましょう。
 
まず、メインギャラリーですが、ベニヤに描かれた大判の絵がズラリと展示されています。色彩豊かなポップなものから、土色なものなど、一つひとつじっくり観賞することができます。
 


 





2階には、アトリエを再現したコーナーや素描なども展示しています。また、建築に興味がある人なら、屋根の構造も気になるはず。これはクロスヴォールトと呼ばれる建築構造で、ヨーロッパの教会建築などに用いられています。建物の外観も、東大雪の山並みをイメージしたデザインで、鉄筋コンクリートの建物ですが、自然豊かな鹿追の町並みに調和するように考えられているそうです。
 


 

絶筆の「馬」は、神田日勝記念美術館所蔵品なので、他館に貸し出しをしてない限り、館内に常設展示をしています。その他所蔵品も、定期的に入れ替えながら展示をしているそうです。
 


 

神田日勝記念美術館の学芸員、川岸真由子さんは、「神田日勝は生きていたら今年で79歳。生きていたら、きっともっともっとたくさんの作品を残したはずです。そして、彼の画風がどんな風に変わっていったのか、本当に見てみたかった。しかし、短い生涯で力強く描いた作品は、ここに数多くありますので、ぜひ彼が暮らした、絵を描いた鹿追で、神田日勝の絵に触れてほしいと思います」と、語ってくれました。
 


 

2016年11月19日(土)~2017年1月15日(月・祝)(40日間)、尾道市立美術館で「神田日勝展(仮)」があるため、その期間は「馬」は尾道にあります。神田日勝記念美術館で「馬」が見たい!という人は、注意してください。逆に、尾道市や近郊の皆さんは、その期間にぜひ、鹿追で絵を描き続けた画家、神田日勝の世界に触れてみてください。
 
※館内は撮影禁止です。館内の写真は特別に許可をもらって撮影しています。

 

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