北海道あるある~端午の節句に食べる「べこ餅」って?



5月5日は「端午の節句」。全国的には“柏餅”や“ちまき”を食べるのが一般的ですが、北海道ではなぜか「べこ餅」が定番。一体、べこ餅ってどんな餅?函館の老舗「丸井 栄餅本店」にお話を伺いました。

 

明治33年創業の老舗餅菓子店


 

函館市の西部地区にある「丸井 栄餅本店」は、明治33年の創業。函館大火や第二次世界大戦などを経て、116年もの間、地域の内外に愛され続けている餅菓子の老舗です。現在のご店主、佐藤秀昭さんは4代目。
 
「明治の頃、函館は東京以北最大の街でした。ハレの日に餅は欠かせませんでしたから、函館は昔から餅屋の多い街でもありました。この辺りも専門店が随分とあったのですが、今や寂しくなりましたね」。

 

 

うるち米や餅米を挽く米粉は自家製粉、餡も自家製。道具は少しずつ器械が増えていますが、実は味の要になる水切りざるは竹製を使うなど、基本を大切に、丁寧な仕事を惜しまず、昔ながらの味わいを守っています。そんな餅菓子は素朴な見た目ながら、弾力のある食感、上品な甘さに満足感が静かに広がる。そんなおいしさです。

 


 

べこ餅ってどんな餅?

 端午の節句に北海道で親しまれているべこ餅は、米粉と砂糖がベース。大福のように柔らかく伸びる訳でもなく、餡が入っている訳でもない、素朴で飽きのこない餅菓子です。東北がルーツといわれていますが、現在の北海道スタンダードは、形は木の葉型。色は黒(濃い茶色)と白の2色、あるいは黒の1色。黒っぽい濃い茶色は、黒糖に由来します。



 

べこ餅には不思議な部分が多々あり、その1つが“べこ餅”という名前の由来。諸説あり、代表的なものを紹介すると…。
①黒糖を使っているので、“べっ甲”のような半透明な色合いから“べっこう餅”がべこ餅に。
②黒糖を使った色合いが和牛のようだから、牛を意味するべこ餅に。
③黒×白の2色使いがホルスタインのようだから、べこ餅に。
 
①のべっ甲説は、高価なべっ甲が庶民の餅菓子の名前の由来と考えるのも少々無理があります。②の和牛説も有力ではありますが、ルーツを掘り下げていくと(後で説明しますが)、この説も決め手に欠けます。

 今は黒×白のべこ餅が多いので、③のホルスタイン説をよく耳にしますが、札幌札幌農学校(現北海道大学)でホルスタインを導入したのが明治20年初期。民間での導入は明治後期から。それ以前からべこ餅はあるので、この説は成立しません。
 
「人から聞いた話で私が有力だと思うのは、米粉の“べいこ”から来ているという説。米が貴重だった時代、精米する時に出る割れたり、粉々になったくず米をムダにしないよう、それぞれの家で粉にして餅をつくって残さず食べた。この米粉(べいこ)の餅から、べこ餅となったと思うんですよね」と、佐藤さん。



 

なるほど!確かにしっくり来る説です。明確な理由が残っていないのは、商売による発祥ではなく、一般家庭で普通につくられていたものだから。栄餅では端午の節句だけではなく、一年中べこ餅をつくっていますが、それだけ需要があり、昔から地域で親しまれている味という訳ですね。




 
一方で、北海道の南部や日本海側には、写真のような形や色合いのべこ餅も残されています。これは、青森県などから伝えられた「くじら餅」がルーツといわれています。くじら餅はかまぼこ型で、金太郎飴のように輪切りにした生地を蒸し上げます。デザインや色が違ってもべこ餅と呼んでいるので、米粉説の説得力も増します。
 
このタイプのべこ餅を、くじら餅と呼ぶ地域も北海道には残っています。同じルーツを持った餅菓子でも、地域に根づいていく経過とともに、呼び名や形が少しずつ変わっていったと考えられます。
 
今回調べた中では、端午の節句になぜべこ餅を食べるのか、その謎は解明されませんでしたが、節句などハレの節目に食べられていた餅菓子だけに、子どもの成長を願い、家族で頬張っていた習慣だけが残ったのかもしれません。べこ餅ひとつとっても、なかなか奥深い世界が広がっていますね。

 

栄餅のべこ餅は、心がホッとする和みの味

 栄餅のべこ餅は、代々変わらない製法でつくり続けています。黒糖と上白糖で蜜を炊き、うるち米と餅米の粉を加えて生地をつくる。それを整形してじっくりと蒸かします。できあがったべこ餅は黒糖のさっぱりした甘さと、むっちりと弾力のある食感が魅力。



 

「僕らの仕事は決して難しいものではないけれど、ごまかしがきかない。少しでも手を抜くと、お客さまにすぐわかってします。米をきちんと研ぐ。その米を風味が落ちないよう自然乾燥にする。使う分だけ製粉する。ひとつひとつ丁寧に、丁寧にやらないと。自分の仕事は文化を売っているという自負がありますから」。
 


 
そう語る佐藤さんのべこ餅は、買ったその日に食べるのはもちろん、翌日少し硬くなったものを軽く炙って食べると、また香ばしい風味が加わり、おすすめです。日持ちがしないので、地方への冷凍発送にも対応しています。