2016年02月25日 | 小西 由稀

大地を創る人。守りながら獲る漁業でホッキ貝水揚げ日本一。苫小牧の漁師・山下博史さん

濃厚な旨味が持ち味で、火を通すとほんのりピンクに染まるホッキ貝。15年も連続で日本一の水揚げ量を誇る苫小牧の漁港に、漁師の山下博史さんを訪ねました。


ホッキ漁師の山下さん▲「第十八新洋丸」の船主・船頭の山下博史さん。長身でスリムなイケメン。良きパパでもある

 

守りながら獲る。厳しいルールで付加価値を生む

上下着ぶくれになり、準備万端で向かった厳寒期の苫小牧漁港。でも、この日は拍子抜けするほど暖かく、海風も穏やか。山下さんも思いのほか軽装で荷揚げの真っ最中。船には黒々とした大きなホッキ貝がびっしりと積まれていました。
 

ホッキの荷揚げ▲山下さんの船には2人の乗組員が。「乗組員の命を守ることも大切な仕事です」 


ホッキは育つ環境で殻の色が異なり、黒いものは「黒ボッキ」、茶系は「茶ボッキ」と呼ばれています。苫小牧産は大きな黒ボッキが主体。肉厚で旨味が濃いと、市場で高く評価されるブランド貝です。「その価値を守るため、独自に決めたルールがいくつもあります」と、山下さん。


苫小牧産の黒ボッキ▲ずっしりと重たい苫小牧産のホッキ。ぷりっとした身は肉厚で、貝柱も立派!


例えば、北海道では殻のサイズが7.5cm以上を漁獲できる規定ですが、苫小牧では自主規制で9cm未満は海に戻しています。また、産卵期の5月~6月は禁漁。操業場所や時期、時間、さらに操業隻数や漁獲量を制限。”獲れるだけ獲る”漁業からいち早く脱し、”守りながら獲る”漁業を実践。「結果、15年連続漁獲量日本一につながっているんだと思います」。


漁場図と駆除した外敵▲横に長い苫小牧の漁場は、夏と冬で操業場所を変えている(上)。操業しながら、ホッキの外敵も駆除している。写真はハスノハカシパンという棘皮動物(下)


噴流式けた網漁▲苫小牧では「噴流式けた網」漁法を採用。水流で海底の貝を掘り起し、網に送り込むのでホッキの殻を傷めない。また、畑と同じく海底を耕すことにもなり、ホッキにとって棲み良い環境を整える

 

父の急逝で感じた、浜の人の温かさと責任感

苫小牧で3代続く漁師の家で生まれた山下さんは、現在30歳で漁師歴11年。人望が厚く、2年前からは苫小牧漁業協同組合・青年部の部長として、若手を束ねるリーダー的存在に。
 
両親の勧めで一度は大学生活を送るも、漁師は子どもの頃からやりたいと思い続けていた道だけに、「遠回りする必要なし」と潔く1年で退学。父親と同じ船に乗り始めたのは19歳の時。そのわずか1年後に父親が急逝。


第十八新洋丸

手取り足取り、仕事を教えてはくれない漁師の世界。後ろ姿を見て学ぶ時間さえなかった山下さんにとって、心のよりどころは父親が遺した日記でした。「日記といっても、操業時の緯度経度をメモした数字だらけの内容。でも、この日記を頼りに最初のうちは無我夢中でやりました」。
 
そんな山下さんに先輩たちも、漁場のアドバイスをくれるなど、さり気なく声をかけてくれました。漁師の仕事は経験、そして結果に対する分析が重要。「独り立ちが早かった分、同じ世代よりも多く経験を積むことができたので感覚をつかめるようになりましたし、自分でも操業日記をつけるようになって見えてきた部分もあります。その間、浜のみんなに本当に支えてもらいました」。
 

山下さんの操業日記▲こちらは山下さんのホッキの操業日記。その日の漁場や漁模様など、気づいたことが記されている

 
さらに、家族の存在も大きかったといいます。「今思えば、19歳だったし、もっと遊んでおけば良かったっすね、女の子のいる店にも行きたかったなって (笑)。でも、母さん、ばあちゃん、妹におばさんと、うちは女ばかりだったので、自分が働くしかなかったんです。何とか1年、無事にみんなを食わすことができたら、次はもう少し母さんにラクさせてやりたいとか、みんなが良くなってくれたら…という繰り返しで」。
 
こんな風に山下さんの話は、自分のことよりも誰かのことを思いやる言葉へと自然とつながっていきます。「浜の人への恩返し」という話も何度も出てきました。30歳にして、少々できすぎです。
 
「だって、“お前、親父を早くに亡くしたけれど、俺が親父みたいなもんでしょ“とか”兄貴分だからさ“って言ってくれる人が、この浜にはいっぱいいるんですよ。浜の人たちのために自分は何ができるのかって、それは考えるようになりますって」。そう笑顔で語る山下さんの11年に、思いを巡らせました。

 

ゆとり世代の反撃!?豊かな苫小牧漁業の魅力を伝えたい

笑顔で語る山下さん

環境はどんどん変化しています。漁をしながら、あるいは青年部による港内外の清掃活動を通して感じる海の変化もあれば、魚離れといった食生活の変化も。「なので、小学校に出前授業に行ったり、朝市で消費者の意見を聞いたりと、気になることは青年部で行動に移すようにしています。変革か継承か、状況に合わせた対応が自分たちの世代には求められていると思っています」と山下さん。
 
「青年部はゆとり世代で括られる年代ですが、そこにはものすごい反発があるんです。ふざけんな!と。そんな偏見は俺たちが変えていくぞ!って。飲んでいる時、若い奴らに20回は演説しています(笑)」。
 

市場の様子▲ホッキの向こう側にさまざまな魚が並び、取り引きされている市場
 

山下さんが今思うのは、「苫小牧を深く知ってほしい」ということ。苫小牧は北海道有数の工業都市だけれど、実は海が豊かであること。100種類以上もの魚種が獲れること。海の環境や資源を守るため、さまざまな活動を行っていること。その結果、質の高い魚を食卓に届けることができるということ。
 
ホッキ=苫小牧だけれど、苫小牧=ホッキでは決してない。山下さん自身も冬のホッキ漁以外は、毛ガニやマツカワガレイなど、一年を通してさまざまな漁をしています。「ホッキが先導役となって、漁業のまち・苫小牧の知名度を上げいけたら、ほかの魚にも注目が集まる。みんなが誇りを持てる浜にしていきたいんですよね」。そう話す笑顔が印象的でした。
 

船と山下さん
 

「大地を創る人」とは

 さまざまなおいしい食を生み出す北海道を「大地」と表現。農業や漁業、酪農業を通し、「新しい北海道を創りたい」「北海道を支えたい」「未来の北海道をデザインしたい」。そんな思いを胸に抱く北海道の生産者を、「大地を創る人」としてご紹介します。

 

関連リンク

苫小牧産ほっき貝サイト
苫小牧市

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Writer

小西 由稀

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