モダニストの変遷を味わう「北海道立三岸好太郎美術館」

 

今から100余年前の札幌に生まれた画家、三岸好太郎(みぎしこうたろう:1903-1934年)。大正時代に鮮烈なデビューを果たし、31年の短い生涯で残した作品を展示する、北海道立三岸好太郎美術館。その魅力をタップリご紹介します!

 

絵と音楽がある、夢のアトリエ

「夭折(ようせつ)のモダニスト」として名を残した三岸好太郎の作品を集めた道立の個人美術館の外観は、八角形の白い建物で、窓が大きく開かれたモダンな佇まいです。春から秋までは敷地つながりの北海道知事公館から北側に庭園を抜け行くこともできますが、12月以降は庭が雪に閉ざされるため、正面側からアプローチしましょう。

 

 

学芸員の福地大輔さんに話を伺いました。まず三岸好太郎の作品だけを扱うこととなった経緯について、「妻の節子さんをはじめ遺族から、220点もの好太郎の作品が北海道に寄贈されたのを機に1967(昭和42)年、北海道立美術館の三岸好太郎記念室として、当館の前身が旧北海道立文書館の建物で開館しました。その後、北海道立近代美術館が当館の近くにオープンすると、旧北海道立文書館が好太郎の美術館となりますが、さらに道営の個人美術館として1983(昭和58)年、現在地に三岸好太郎美術館をつくり、開館しました」とのこと。

 

 

知事公館の一角を建設地に充てたことからも、いかに彼の評価が当時高かったかが想像されます。

 

この美術館の際だつ特長の1つは“音楽”にあるとのこと。
「開館時から歴代の学芸員により、絵画のある空間で音楽を楽しめる美術館を心がけ、コンサートを開催してきました。好太郎の作品には音楽家との交流による影響が強く見られ、代表作の1つに『オーケストラ』という作品も残しています。作品を描く前、彼は奏者ごとに膨大なスケッチを経てから挑んだようです。絵画のある空間で音楽を奏でる“想い”を受け継ぎ、国内で数館の美術館しか手がけていなかった時代から、当館は美術館での音楽イベントを続けてきました」(福地さん談)。

 

 

およそ月1回のペースで、ピアノやチェロなどの楽器奏者や声楽家によるイベントを開催しています。

 

 

大きな窓と絵の不思議

見た目は小さくても大変個性的な美術館は、1F と2Fに大きく5つの展示コーナーから構成されています。ちなみに館内はストロボを使わなければ撮影してもOKとのこと。コーナーごと大きく変わる好太郎の画風に、観る人は、どのようにメッセージを受け止めたらよいのでしょう。
「好太郎が残した絵は、年ごとに激しく変化しているため、当館のボランティア解説員とともに展示を巡るのがお奨めです。同じ人が描いた絵とは思えない画法の変遷も、彼を取り巻く当時の状況を聞くことで、より深く理解できますよ」と福地さん。

 

 

それではさっそく福地さんと鑑賞します。

 

 

祝日とイベント時を除く開館日の13時から15時の間には、一巡約30分の解説ガイドさんが無料でついてくれます。受付で希望すれば1名から対応。時間がないので20分で巡りたい、という場合でも柔軟に受けてくれるそうです。

 

絵画好きだけでなく建築に興味のある人の来館も多く、年間約2万人が訪れます。変わった特長としては、美術館にしては窓が大きい点も観賞のポイント。好太郎がアトリエに意図した“光のあしらい”が、美術館にも一部反映されていることが伺えます。

 

しかし美術館にとって窓は本来悩ましい問題。窓には紫外線防止フィルムが貼られているそうです。「庭園からの光が水面を反射して室内に入り、吹抜の壁面に空模様を描きます。これは好太郎の意図でもあるのです。生前に実現したかったアトリエへの想いが、美術館に具現化されています」(福地さん談)。

 

きねずみが駆ける 庭園美術館

そんな陽光も楽しめるカフェ「きねずみ」は、庭園に現れるエゾリスから名前が付いたお店で、お茶を飲みに地元の人も立ち寄ります。香り高いコーヒーと共に桑園地区のパンや焼菓子を揃える店内は、温かい飲み物を手に時を過ごしたくなる空間です。これからの季節は「雪の上を走り回るエゾリスは見つけやすくなります」と、森みちこ店長。

 

 

さらにこの美術館は、意外と子どもたちに知られています。札幌の円山に住むおばけの子どもが、友達をつくりに街に降りてくる絵本「おばけのマ〜ル」(なかいれい、けーたろう/中西出版)4作目の舞台が、三岸好太郎美術館なのです。

 

 

「三岸好太郎作品とマ〜ルがコラボしたポストカードもきねずみで販売しています。ここでしか入手できない絵はがき(1枚100円:税込)が、好太郎・マ〜ルのファンに好評です」(森店長談)。

 

三岸ゆかりの地を巡る

取材した日はボランティアの解説員がいる時間帯だっため、福地さんと共に案内に加わって頂き、好太郎作品の背景や、札幌でのエピソードを伺いました。
解説員の岸本さんによれば「洋画家三岸節子の夫が好太郎ということを、この美術館に来るまでご存知ないかたも多く『節子さんの夫も画家なんですね!』と驚かれることがあります。北海道の人は三岸といえば好太郎ですが、本州ではむしろ節子さんを先に連想するようです」とのこと。

 

 

新たな発見や驚きがあるのが、アートで巡る旅の楽しみ。「赤い肩かけの婦人像」に登場し、後に妻となる節子は愛知県起町(おこしちょう、現:一宮市)の出身で、一宮には三岸節子記念美術館があります。

 

 

好太郎の死後、彼の意思を継いで1934(昭和9)年に遺族らによって建てられた三岸好太郎のアトリエは、日本で初のモダンデザイン建築。こちらも築80年を経て東京都中野区の上鷺宮にあり、国の登録有形文化財となっています。
札幌、愛知一宮、東京中野と三岸好太郎・節子ゆかりの地を巡るのも素敵です。

 

 

 

 

絵画好きはもちろん、建築も見逃せない三岸好太郎美術館。2016年1月20日(水)まで企画展「線は風のように-三岸好太郎の線描の魅力」を開催中です。三岸好太郎美術館から200m弱の距離には北海道立近代美術館があり、2館の常設展示が割引となる券を使うのもお得。
鮮烈なデビューから頻繁に画風を変えた三岸好太郎。その時々で試みた「線」の意図に着目してみてはいかがでしょう。

 

 

交通アクセス

  1. 地下鉄から徒歩で  東西線「西18丁目」駅4番出口から道立近代美術館方面に徒歩約650m、看板あり(または「西11丁目」駅1番出口から約1.1km)
  2. 市電から徒歩で  「西15丁目」停留所で下車し徒歩約700m、看板あり
  3. 路線バスで  北海道中央バス・JR北海道バス「道立近代美術館」バス停で下車すぐ
  4. JR駅から徒歩で JR桑園駅から徒歩約1.2km、JR札幌駅から徒歩約2km
  5. マイカーで  北三条通に面して駐車場が2台分あります。満車時は周辺の有料駐車場をご利用ください※優待駐車場はホームページでご確認ください