桑園で散策。「北海道知事公館」を訪ねて



札幌の市街地に、都心を忘れそうな豊かな森があることをご存じですか?桑園(そうえん)の一角に、間もなく築80年を迎える北海道知事公館が佇んでいます。旧財閥の三井合名会社が建てた名建築からは、昭和初期のモダンな美を随所に感じることができます。北海道知事公館と庭を巡りました。

 

実は珍しい、公開している知事公館

札幌の地図をざっくり頭に描き、まず知事公館の広さを想像してみましょう。碁盤状の街区は1丁約100m。その2×2丁を占める緑地の半分以上が、知事公館のおおまかな広さです。庭園と建物を含む総面積は約5.6ha、そのうち5.2haを公開しています。北大植物園と比べると約4割の広さですが、ここは無料。散歩する人の姿も多く、市民の憩いの場であることを感じます。取材の日は幼稚園児、小学校の遠足、犬連れの人達が外に見られました。





北海道知事公館は館内の見学が可能です。受付で氏名と住所、人数を名簿に書けばOK。開館時間は月曜から金曜の平日、9時から17時のため旅行者は少々行きにくいかもしれませんが、見て損はない貴重な建物です。係の伊藤朋恵さんに案内して頂きました。





建物裏から見た外観も素晴らしく、銅板屋根に白い漆喰、赤く塗られた木組が縦横斜めに走るハーフティンバーという建築様式が見られ、左右非対称な意匠がアクセントとなっています。この建物はいまから100年前に、開拓使に功労のあった森源三の私邸があった土地を、三井合名会社が購入。私邸は三井別邸として活用し、1936(昭和11)年、別邸の隣地に「三井別邸新館」を施工。英国の建築様式を取り入れた、貴賓館を建設しました。それがこの建物です。

戦後は米軍の接収を挟み、所有は札幌市に移り、1953(昭和28)年からは北海道庁の所有となり、北海道知事公館として活用されています。建築資材は道産のナラ材やカバ材、内部は北海道を象徴する調度や絵画が点在します。




 

賓客のため?不思議なボタン

「道の所有となって以降、知事公館は国内外からの表敬訪問や会議、さまざまな行事を行う場として使われています」と伊藤さん。見学可能な大きなお部屋は5つで、控室やロビー、吹抜を加えたとしても館内はすぐ見終わってしまう広さ。ここはぜひ、受付でもらえるパンフレット「知事公館の由来」を読んで、歴史的な背景も含めて建物を観賞するとよいでしょう。





旧財閥によって建てられた迎賓館は、部屋の雰囲気も1部屋ごとに異なり、ドアの木材はあえて荒削りな風合いを残し、ドアノブも通常より20cm以上高い位置にあって、どこか英国風。

「ドアの近くにもご注目を」と伊藤さんが示したのは、特殊な呼び出しボタン。御座所って表示がありますがなんでしょう?





「貴人がいらっしゃる部屋を、ござしょ(おましどころ)といいます。1972(昭和47)年の札幌オリンピック開催の際、昭和天皇皇后両陛下が知事公館に滞在されました。両陛下、次いで当時の皇太子殿下ご一家を迎えるために道庁では、この呼び出しボタンの設置を始め、西陣の手織り生地を使った壁クロスやカーテンを誂えるなど、内装を整えたようです」(伊藤さん談)。





古文の授業で習いました!ちなみに内舎人は天皇を警護する人、女官は皇后の身の回りのお世話をする人です。「2階の寝室には、手前の応接セットの位置にベッドが置かれていましたが、後に運び出しました。この部屋では壁やカーテンのしつらえ、そして昭和天皇皇后両陛下が使った椅子やテーブルの現物がご覧になれます。椅子の張り地はエゾシカ皮です」と、見どころを説明してくださいました。





このお部屋は、ドア枠と壁の境目をモールで飾りアクセント的に縁取り、他の部屋と雰囲気を異にしています。気泡やゆがみのある板ガラスは、外の光を柔らかく通し、大きな窓がさらに部屋を広く見せています。外の眺めも、都心を感じさせない豊かな緑。





豊平川扇状地の上にできたまち札幌で、知事公館の周辺はアイヌの人びとが「メム(湧水池)」と呼んだ、扇状地の広がりで流れが緩やかになった川が、伏流水となって再び湧き出す13ヶ所の主要なメムのひとつでした。昭和の初めまでサケやマスが遡上したメムの流れも、終戦後の都市化によって湧水が枯れたため、現在は動力で水を循環し、修景保存した庭園が公開されています。

 

小さな意匠にもご注目

素晴らしいロケーションの知事公館ですが、年間の見学者はわずか6千人弱だそうです。庭園の利用者は、警備員が1日3回定時に巡回して集計し、こちらは年間約1万5千人とのこと。




「知事公館の建物内は名簿で入館数を把握しますので確定値ですが、公園は入口が3ヶ所あり面積も広いため、この方法に落ち着いたようです。実際はもっと多く、みなさんに利用されている実感があります」(伊藤さん談)。
つまり知事公館に来た人は、大変ツウであると言えます。ぜひ、内部の意匠もマニアックに味わってください。





応接室の窓辺には北海道の林業を担った「バチバチ」と呼ばれる馬そりが。別室には北海道の定番、木彫り熊の置物もありました。各部屋を照らすランプ、そのデザインもお見逃しなく。





 


知事公館をあとにして、広い公園を散策します。敷地内には、白大理石が美しい安田侃(やすだかん)の「意心帰(いしんき)」、流政之(ながれまさゆき)の彫刻「サキモリ」を始め、アートも点在。歴史好きには8世紀頃といわれる竪穴住居の跡も発見できます。


 


深まる秋、北海道知事公館の散策に出かけてみませんか。


 
 

交通アクセス

(1)地下鉄から徒歩で / 東西線「西18丁目」駅4番出口から道立近代美術館方面に徒歩約400m、看板あり(または「西11丁目」駅から約900m)
(2)市電から徒歩で / 「西15丁目」停留所で下車し徒歩約700m、看板あり
(3)路線バスで / 北海道中央バス・JR北海道バス「道立近代美術館」バス停で下車すぐ
(4)マイカーで / 見学者用の駐車場はありません。公共交通機関をご利用ください