川に出かけませんか。「札幌市豊平川さけ科学館」



札幌が世界に向けて誇れることは、190万都市を流れる川にサケが毎年遡上(そじょう)すること!かつては遡上が絶えたサケを、再び豊平川に呼び戻すべく、川の環境を整えてきた市民の長い活動がありました。遡上のシーズンを迎えた札幌市豊平川さけ科学館を訪ねました。

 

遡上シーズンが始まりました

開館31年目を迎える札幌市豊平川さけ科学館(以下:さけ科学館)は、札幌市街地から南へ約7km上流に遡った地点にあります。豊平川とその支流をなす真駒内川に挟まれた緩い谷間にある施設は、赤い屋根の平屋建てが五輪通りから確認できます。さけ科学館の周辺は、1972(昭和47)年の札幌冬季オリンピックで会場となった競技場や公園があり、周辺住民には格好の散策コースとなっています。
サケの仲間の暮らしを、学芸員の前田有里さんに見せていただきました。





さけ科学館の来館者は年間約8万人で、年に複数回訪れる地元のリピーターが多い施設です。スタッフは全部で7名。サケや川の生物の生態を伝えるべく、飼育や普及に励んでいます。
「サケの遡上シーズンが始まると、当館は繁忙期となります。年間で入館者数見ると10月から11月が1つ目のピーク。秋に次いで多いのは春5月で、卵から孵化して当館で育てた稚魚を放流する体験で賑わいます」と前田さん。





札幌市内の川では、中流域で秋に遡上するサケを見ることができます。魚体に婚姻色が出てもサケは本来が目立たない色なので観察は難しそうですが、でもご安心を!「当館では調査結果から、市内でおすすめのサケ観察場所を発信しています。お電話での問合せや、当館のブログで情報をチェックして観察に役立ててください」とのこと。前田さんたち専門家の情報を踏まえてから、実際の川に出かけることができます。ちなみにここ真駒内川は上流域にあたるので、サケの産卵条件には厳しいようです。





さけ科学館は大きく4つの施設からなります。展示ホールと、水槽や池で魚を飼育展示するゾーン。さらに両生類やは虫類も含めた札幌の川に住む生物を紹介する別棟のさかな館、実習館から構成されます。特徴的な建物は、北海道で活躍した建築家田上義也(たのうえよしや・1899-1991)が手がけた作品で、サケ稚魚が向かい合ったデザインが象徴的です。入口でエサが買えるので、屋外の観察池で使いましょう。





「観察池ではエサを食べる魚の動きを楽しめる、エサやり体験ができます。アルビノのニジマスが子どもたちには人気です。数を決めてエサを販売するので、エサの売れ行きをみて与え足りない時は、職員が夕方にエサを補います」と前田さん。
どの魚にもエサが行きわたるよう、与え方にもコツがあるようです。

 

豊平川第1号サケを求め

この施設のテーマはもちろんサケ。例年最初に捕獲したシロザケを、前田さんたちは「豊平川第1号」として来館者に展示します。「今年は9月4日から投網(とあみ)を手に職員2名が補魚に出て、9月11日の捕獲で第1号が捕れました。通常サケは群れで泳ぎ、川が増水する雨上がりのタイミングを河口で待ちます。増水はサケには好都合ですが、増水しすぎると人が川に近付けなくなり、その間に相当のサケが上り始めてしまいます。豊平川での第1号サケを捕る見極めは難しいんですよ」(前田さん談)。





見学する際は豊平川のサケがいる水槽に直行するのも、順路により見ていくのもお好みで。ここは掘抜き池を横から見ることができる、地下かんさつ室。奥に進むに連れて水槽を泳ぐ魚の年齢が1歳、2歳と上がり、稚魚から成魚らしい姿や体色に変わっていくことがわかります。







 

人を育てる拠点としても活用

ここは通路に面したガラス張りの部屋、採卵ふ化室です。産卵期にはサケの人工採卵受精を職員が行います。取材時は大学生が研究で設備を使い、魚の嗅覚を調べる方法を模索していました。特別に入らせてもらい、トラウトの幼魚の頭に電極をつける様子を見ることができました。








研究者に実習の場を提供するのもさけ科学館の役割の一つ。そして川の生物を大事にする人づくりもこの施設の重要な使命です。この施設はもともと、サケに対する札幌市民の熱い“想い”によってつくられたという経緯があるからです。活動の発端は高度経済成長時代に遡ります。都市化による水質汚染や豊平川の改修で、サケの遡上が一時途絶えた時代に始まった運動が、カムバックサーモン運動です。国が厳格に管理したサケの卵を、「貸与」した形で市民組織が確保。国に掛け合った結果、水産庁の施設で卵から育てた稚魚を豊平川に、市民の手で放流することができたのです。さらに川の堰堤(えんてい)に魚道(ぎょどう)がないために、サケの遡上が阻まれていることを小学生が報告したことが、国を動かす成果につながりました。

1982(昭和57)年、札幌市立東白石小学校の児童が官邸に招待され、豊平川に魚道をつくることを、当時の総理大臣が直接約束。以来、豊平川の7つの堰堤には魚道がつくられたのです。いまでは国や北海道などが川を改修する際、さけ科学館の意見が取り入れられるようになり、設計段階から人と川の生物に優しいように考えられています。








子どもたちへの教育普及を担当する前田さんは、わかりやすく伝える工夫を錯誤する日々とのこと。「野生サケの意味を子どもに伝えることが、実はとても難しいです。興味を持ってもらうために、楽しいことも重要ですが、楽しいだけでは内容が薄くなってしまう。勉強の面を打ち出すと学校と同じになってしまい、当館の特長が薄れます。入口は楽しく、子どもの知的好奇心を刺激することを常に考えています」(前田さん談)。わかりやすく伝えることが、未来のサケの守り手となる人を育てることにつながっているのです。

さらに前田さんは2011(平成23)年、天皇陛下がご視察でさけ科学館を訪問した際、豊平川の魚について説明する係に抜擢。ハゼ科魚類の研究者である陛下は、北海道のゴリが本州よりも大きいことに関心を示され、さかな館で予定時間を越えて熱心にご覧いただいたという逸話も話してくださいました。





10月から11月にかけては、さけ科学館が主催するサケ観察会が市内の川で開催され、予約なしで参加OK。護岸や河原を歩くので、底が安定したスニーカーとカジュアルな服装がベターですが、野生サケの遡上を見に行けばきっと感動します。
秋から冬にかけての札幌市豊平川さけ科学館、1度訪れてみてはいかがでしょう!



 

交通アクセス

(1)地下鉄と路線バスで / 南北線「真駒内」駅から、じょうてつバス乗場6・7・8・9から出る路線バスに乗車。5つ目「真駒内競技場前」バス停で下車すぐ。看板あり(※五輪通は交通量が多いので、アンダーパスをご利用ください)
(2)マイカーで / 札幌市街地から国道230線を定山渓方面に南方向、約25分。駐車場完備(※4月29日〜11月3日までの期間、土日と祝日は有料Pとなります。平日は無料P)

 

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