蠣崎波響と夷酋列像、北海道博物館開館記念特別展開催

※この記事は2015年のものです。
 
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北海道博物館で北海道博物館開館記念特別展「夷酋列像(いしゅうれつぞう)―蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」が開催されます。これは、松前藩家老で画人、蠣崎波響(かきざきはきょう)が12人のアイヌの首長たちを描いた絵画「夷酋列像」が、国内外から初めて一堂に会するというもの。また、絵をめぐって交差する人、物、世界も紹介されます。

 

松前藩家老で画人、蠣崎波響

蠣崎波響は、1764年5月、松前藩第7代藩主松前資広(まつまえ すけひろ)の5男として生まれました。北海道松前にあった福山城で生まれたそうなので、正真正銘の道産子です。翌年、松前藩家老・蠣崎家の養子になります。幼い頃より絵を描くのが好きで、子どもながらすでに大人をうならせる腕前だったといいます。その才能を伸ばすため、10歳で江戸に出て南蘋(なんびん:中国清時代の画家)派に弟子入りし腕を磨き、やがて20歳で松前に戻りました。

藩主の子に生まれ、家老家の養子となり、子どものころから絵の腕を見込まれ、江戸で修業した後、再び実家に戻り家業を継ぐ…と聞くと、なんだかいいとこのボンボンのように思えます。しかし、蠣崎波響の生涯には不明な点も多く、まだまだ謎が多いのだとか。
その頃の北海道=蝦夷地は、先住民族であるアイヌと和人とのいさかいも多く、1789年にはついに和人の横暴に耐えかねた一部のアイヌたち商船などを襲い和人を殺害。クナシリ・メナシの戦い(寛政蝦夷蜂起)が勃発します。しかし、松前藩から鎮圧のための討伐隊が派遣され、またアイヌの首長たちの説得などにより蜂起した者たちは投降。しかし、投降した者たちは処刑されてしまいました。
この時、松前藩に協力したアイヌのうち、最も功労のあった長老たちの肖像画を松前藩の命により描いたのが、蠣崎波響でした。

 

制作に1年をかけた「夷酋列像」

実兄の松前藩第8第藩主・道広の命により、アイヌの首長を描く「夷酋列像」の制作に着手した蠣崎波響は、1年という時間をかけて12人の首長を1人ずつ、丁寧に描き上げていきました。


4番目のみ小島雪崝(山編に青)筆「夷酋列像(模写)」(1843年)、個人所蔵


1790年、完成した「夷酋列像」を持って蠣崎波響は上洛。その時、京阪の文化人たちや貴族などの目に触れ、また時の天皇からも賞賛を受けて評判となり、多くの模写が生まれました。このことから、「夷酋列像」の注目の高さがうかがえます。





この絵が描かれた頃、アイヌの人たちは和人から差別的な扱いを受けることが多くありました。しかし、蠣崎波響が描いたアイヌの首長たちは、どれも威風堂々としており、髪の毛、ヒゲの一本一本まで克明に描かれています。また、色鮮やかで豪華な衣装をまとった彼らは、人格者としての威厳すら醸し出しているように思えます。これは、和人以下として見下すのではなく、アイヌの生き方や文化、彼らの人間性を描き出そうとしていたからではないか…と感じます。

 

幻の名作が一堂に会する、まさにとっておきの特別展

9月5日~11月8日、北海道博物館で、北海道博物館開館記念特別展「夷酋列像(いしゅうれつぞう)―蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」が開催されます。目玉の1つは、なんといっても国内外から集められた「夷酋列像」。実は「夷酋列像」は、真筆だけではなく、粉本、模写などもあり、松前出身の道産子画人ですが、すべての作品が道内にあるものではありません。


今から31年前、1984(昭和59)年10月26日の北海道新聞一面トップに、「蠣崎波響の幻の名作『夷酋列像』仏で11点発見」というニュースが掲載されました。新聞記事によると、「夷酋列像」はフランスのブザンソン市立博物館(現ブザンソン美術考古博物館)が1930年以前に入手したもので、価値がわからないまま倉庫に埋もれていたとのこと。それをたまたま東洋美術専門の学芸員が発見し、日本の専門家に鑑定を依頼したところ、真筆と見て間違いないという鑑定結果が出たという大ニュースでした。

そのブザンソン美術考古博物館から、そして国内各地の諸本が、今回初めて一堂に会します。こんなオールスターみたいな展示会は、滅多に見られるものではありません!
ツキノエ、イコトイ、チキリアシカイ(ツキノエの妻、イコトイの母)など、今にも何かを語り出しそうな「夷酋列像」は、国内外に散らばってしまったものの、北海道の宝物です。

 

夷酋列像をめぐる、人、物、世界

特別展では、「夷酋列像」をめぐって交差する人や物、そして18世紀の江戸時代に日本人が抱き始めた世界への興味・関心にも視野を広げ、現在に続く蝦夷地=北海道のイメージも展示、紹介します。
北海道博物館所蔵のものはもちろん、市立函館博物館や国立歴史民俗博物館などから、重要文化財15点を含む約130点を展示(会期中の展示入れ替えがあります)。
中国からの渡来品である「蝦夷錦」をはじめ、「夷酋列像」に描かれている物を通して見ると、蝦夷地を中心とした北東アジアの交流を知ることができます。一枚の絵から、当時の北海道に思いをはせると、今に続く歴史やアイヌの文化にも触れることができます。











また開催期間中は、講演会やシンポジウムも開催されます。詳細はHPをチェックしてみてください。

私は、東京へ行くといつも必ず博物館や美術館情報をチェックします。なぜなら、北海道ではなかなか見られないものがあるから。そのたび「いいなぁ、東京は」とうらやましい気持ちでいっぱいでしたが、今回は逆に「うらやましがらせてやる!」という気分です。
道民はもちろんですが、開催期間中に来札予定の方は、ぜひ時間をつくって北海道博物館へ足を運んでみてください。「夷酋列像(いしゅうれつぞう)―蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」は、北海道で見てこそ意味があるってもんです!


【北海道博物館開館記念特別展「夷酋列像(いしゅうれつぞう)―蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」】
●開催 / 2015年9月5日(土)~11月8日(日)
●開館時間 / 9月30日(水)まで9:30~17:00(入場は16:30まで)、10月1日(木)から9:30~16:30(入場は16:00まで)
●料金 / 一般1000円、高大生500円、中学生300円
※その他詳細は、HPをご覧ください。

 

関連リンク

北海道博物館開館記念特別展「夷酋列像(いしゅうれつぞう)―蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」

 

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※参考文献
「蠣崎波響の生涯」中村真一郎/新潮社
「松前絵師 蠣崎波響伝」永田富智/北海道新聞社