馬に囲まれた生活に憧れ実現させた女性獣医師、荒井亜紀さん



皆さん、幼い頃の夢って何でしたか?日高地方の新冠(にいかっぷ)町で暮らす荒井亜紀さんは、小学生の時の夢が「馬に囲まれた生活をすること」でした。現在はその夢を叶え、26頭の馬たちに囲まれた生活をしています。

 

荒井さんの牧場は?

新冠町の街中から車で約25分、途中、競走馬を育成する牧場が続くサラブレッド銀座を抜け、森に囲まれた高台に進むと荒井さんの牧場があります。




牧場では、農業生産法人として馬の生産をするとともに、「遊馬ランドGRASS HOPPER」という名称で観光客向けの体験乗馬も開催しています。引き馬をはじめ初心者向けのコースから、川や海を進むコースや、半日以上かけて楽しむ経験者向けのコースなどがあります。





牧場には、サラブレッドをはじめ、ポニー、どさんこ、スポーツホース(中間種・雑種)と、さまざまな馬が暮らしています。
荒井さんの牧場にいる馬は、どれもちょっとイワク付き。華々しく活躍している馬もいますが、もともとは捨てられる運命だった馬たちです。怪我をした競走馬や育てられなくなった馬たちを引き取っていくうちに、どんどん頭数が増えていったそうです。





では、なぜ荒井さんのもとへイワク付きの馬が集まってきたのでしょう?
それは、荒井さんの本業は、馬専門の獣医さんだからです。
日高地方周辺は馬の一大生産地。具合の悪い馬のもとへ往診するうち、何とかこの馬の面倒を見てもらえないだろうかという話がいくつかあり、引き取っていったそうです。
「かわいくてねー、ついつい増えちゃったのよね~」
自分の牧場を眺めながら、そう語る荒井さん。根っからの馬好きのようです。




 

小学生の時に芽生えた馬への憧れを実現

荒井さんは、大阪府守口市出身。小学校に入りたての頃、実業家だったお父さんが馬主になったことで馬に関心を示すようになったそうです。当時、近隣の畑にはまだ農耕馬が働いていた時代だったため、近所で馬を眺める機会もありました。
たまたま自宅の近くに乗馬クラブがあり、学校帰りに塀の下から覗き見をして、スラッとしたサラブレッドの足に心奪われていたそうです。
「乗馬したいとずっと親に頼み続けて、小学校6年生の時にやらせてもらったの。そしたらもうダメ、ハマっちゃった」
学校の授業中も頭の中は馬のことでいっぱいで、ずっと馬のことばかり考えていたそうです。





中学生になっても馬への憧れは増すばかり。14歳の誕生日を日高地方の牧場でお祝いするために、1人で北海道へやってきたという、たくましい(失礼…!?)女性です。

高校生の時は毎年、春夏冬の休みのたびに日高地方を訪れ、牧場でアルバイトをする生活を送っていました。
「ワタシ、バスケ部だったんだけど、学校が休みの時は幽霊部員でした。だって、馬に会いたかったから」
大学の志望校はもちろん北海道の学校。
「受からないと言われていたのですけど、補欠みたいな感じで入っちゃたんです。願うと叶うものなのですかね」
北海道内の大学の獣医学部を卒業し、日高地方の獣医さんのもとで勤めることになりました。しばらく勤務を続けたのち、獣医として独立しました。

 

「馬は私にとって仕事ではなくライフワーク」と語る荒井さん

ある日、新冠町内の離農農家の跡地を引き継げるチャンスがありました。新規就農をし、馬に囲まれた生活が始まりました。ただ、引き継いだ家はボロボロ、床下や屋根裏をヘビがチョロチョロ這うような住居でした。








冬はこごえるような寒さで夏は虫との闘いが待っている家で3年間生活したのち、娘さんが誕生したのを機に新たな住居をすぐ近くに建て、やっと落ち着いた生活になったようです。
新居は馬好きならではの造りをしています。トイレや風呂場は大窓があり牧場を一望できます。かなり衝撃的なことが、トイレにドアがないこと。馬を眺めるのに開放的なほうがいいから、だそうです。








新居を建ててから2015年で14年。26頭の馬たちに囲まれた生活を送る傍ら、地域活性や観光振興への取り組みも積極的に取り組んでいます。
「寝る時間なくても、好きだから苦痛って感じることないんですよね。仕事ではなく生活の一部、ライフワークなんです」
と語る荒井さん。
近年では、ヒグマが出没する山野を切り開き、日高地方を馬に乗って、前泊を入れて5泊4日で巡るルートを開拓しました。自宅は簡易宿泊所の認可を取り、今後外国人向けの宿泊受入も始めていく予定です。
さらに、馬に親しんでもらいたいと、大阪府箕面市に乗馬体験施設も作ります。





牧場を案内してもらっている時、ふと一言。
「あの馬のすぐ先が、今まで亡くなった馬たちのお墓。で、その一番向こうが、私のお墓。私死んだらあそこに眠るって決めてるの」
幼い頃に抱いた夢をひたすら追い続けてきた荒井さん。馬とともに生きる覚悟、腹が据わっています。





幼い頃の夢を叶えたいと思っている方、北海道移住に憧れるという方、皆さんもいかがですか?
歳を重ねるごとに制約は多くなりますが、二の足を踏んでいる皆さん、アナタの思い込みと情熱次第かもしれませんよ。