大地を創る人。十勝・大樹町の〝美人〟でおいしい「清流だいこん」の産みの親、大石富一さん



「清流だいこん」。いかにもみずみずしくておいしそうな名前のこの大根は、大樹(たいき)町の大石農産のオリジナル商品です。ブランドとして確立させるまでは山あり谷ありでした。代表の大石富一さんの半生に迫ります。

 

みずみずしいと評判の「清流だいこん」

「もう1本播(ま)いちゃうから、ちょっと待っててくれるかい!」。丘の上の畑で、私たち取材班に向かって大きな声をあげ、勢いよくトラクターに乗り込んだのは、大石農産の代表、大石富一さんです。晴れた空の下、海からの風がまだ冷たく感じた5月中旬。「播いて」いたのは青首だいこんの種で、1本とは畝(うね)のことです。

この種まきの作業は専門用語で「播種(はしゅ)」といい、毎年4月下旬~8月まで行われます。一方、収穫は7月~10月にかけて。収穫後の大根は自社の選果場で選別。おもに関東の市場に出荷しています。

 



「〝美人〟でおいしい大根を目指しているんです。みずみずしいとお褒めの言葉をもらえることも多く、励みなりますね」。うれしそうに目を細める大石さんですが、最初からいい大根をつくれたわけではありません。かつて、家業は畑作酪農でした。両親の代で経営が厳しくなり、もう辞めようかというタイミングで、見ず知らずの男性が大石家を訪れたことが、「清流だいこん」誕生につづく山あり谷ありの旅のはじまりとなりました。

 

波瀾万丈!? 「清流だいこん」誕生秘話!




車のエンジンオイルがなくなったから助けて欲しい。そう大石家のドアを叩いた男性は、飼料をつくる会社に勤めていました。その彼が、大石家の牧場を見てこう言いました。「最近は畜産農業が普及してきているので、牧草をつくってみてはどうですか」。藁にもすがりたかった大石家は、早速、牧草づくりに転換します。

当時は為替レートが1ドル360円です。輸入飼料が入ってくる心配がなく売上げは好調。ですが、その後、彼らを襲ったのは為替自由化の波でした。あっという間に安価な輸入飼料に負け、また経営難が訪れます。

「それでどうしようかと考えていた時に、お隣の豊頃(とよころ)町でいい大根が獲れると聞いて、いちかばちかで植えてみたんです」。こちらも出だしはいいように見えましたが、数年経つと、実が曲がったり土中で腐敗してしまったりとうまくいかなくなります。

なぜだろうと考えながら畑を見ていると、大根がよく育っている区画を発見。そこは肥料をまきわすれたところでした。「もしかして、うちの土には、あんなに肥料は必要なかったのかもと思い、そこから土づくりに取り組むようになったんです」。

健康な大根をつくるには、土中の栄養バランス、つまりは微生物のバランスを整えることが大切。そんな考えのもと、インターネットや本で勉強をし、仮説を立ててはさまざまなやり方を検証。自分の畑にあった農業を模索しました。

 


トラクターをカスタマイズしたり、収穫機をメーカーに依頼してつくってもらうなど、効率よく収量を増やすためのさまざまな工夫も凝らしました。「でもなかなか結果に結びつかず、3人の息子やスタッフなど労働力を確保したはいいけど、今年ダメならもうダメかもって状態まで追い詰められまして…」。

がしかし、ここで奇跡が起きます。

「その年にいきなり、収穫量が1.5倍になったんですよ。あれには驚きました。ギリギリで間に合いましたね(笑)」。

 

生涯現役で社会と地球の役に立ちたい

安定した出荷ができるようになったいまも、「これで満足ということはないです。さらにいい農業を目指して、毎年〝仮説と検証〟ですよ」。毎シーズンの終わりには、専門機関に土壌成分の分析を依頼し、そこで出た数値をもとに来シーズンの対策を立てるといいます。また数年前からは、そばの栽培にも挑戦。「十勝海霧そば」としてブランド化を目指しています。

そんな大石さんがいつも考えているのは、生涯現役で社会と地球の役に立ちたいということ。「仕事こそが元気の源」。みんなが幸せになれる社会に、農業を通して貢献していきたいと語ってくれました。

 


 

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「大地を創る人」とは

さまざまなおいしい食を生み出す北海道を「大地」と表現。農業や漁業、酪農業を通し、「新しい北海道を創りたい」「北海道を支えたい」「未来の北海道をデザインしたい」。そんな思いを胸に抱く北海道の生産者を、「大地を創る人」としてご紹介します。