大地を創る人。料理人から支持される細やかな手仕事。ウニ漁師の佐藤正樹さん

口の中でとろける爽やかな甘みと、ふんわり広がる磯の香り。今年も日本海沿岸のウニ漁が始まりました。産地のひとつ、積丹半島の先端に近い余別地区には、札幌や東京の料理人に支持されるウニ漁師・佐藤正樹さんがいます。採って終わりではない、ウニ漁のお話を佐藤さんに伺いました。

 


 

夏に旬を迎える日本海のウニ漁

午前5時前。ウニ漁の操業合図である赤旗が揚がると同時に、何隻もの小型船が次々と出漁します。余別地区のウニは橙色のバフンウニも採れますが、明るい黄色をしたキタムラサキウニが主体。

漁期は6月10日頃~8月末までと定められていますが、毎日出漁できる訳ではありません。毎年、ウニの実入り調査を行い、良い状態になるまで待ってから始まります。また、天候にも影響されるので、実際に操業できるのはわずか40日間。貴重な浜の味なのです。

 



この地域では「ガラス箱」と呼ばれる水中眼鏡に似た箱眼鏡を口にくわえ、覗き込みながら、柄の長いタモ網を使う昔ながらの漁法です。広い海の中、繁茂する細目昆布の中に潜むウニを探し出すのですから、それはもう宝探しのようです。

 



しかも、船を巧みに海面に傾け、バランスを取りながら行う漁は、相当な技術が必要。また、「操業できる時間は3時間。それも漁獲できる量はカゴ2つ分と決まっているため、実入りの良いウニをいかに見分けられるかが腕の見せどころになります」。経験から得たデータと技術に頼るところが大きい漁ともいえます。
 


 

丁寧な浜仕事で価値を上げる

ウニ漁は採って終わりではありません。浜に上がるとウニをむき、選別する仕事が待っています。むきたての実はやわらかくデリケート。粒が壊れないよう、丁寧に殻から取り出します。粒の大きさ別にしたり、色の良くないものははじいたりと、選別作業も行います。

 



さらに、むいた実には未消化の昆布、トゲや殻の破片などが混じっているため、裏表をチェックし、ピンセットでひとつひとつ不純物を取り除いていきます。少しでもキズがつくと痛みやすくなるため、細心の注意が必要です。

 

 




みなさんは、ウニの殻の中に実がどれくらい入っているかご存知ですか?わずか5片しか入っていません。1kg分のウニをむいても、実はその15%ほどしかないといわれています。ウニ丼にするには、一体何個のウニが必要になるのでしょう。佐藤さんの細やかな手仕事を見ていると、「1粒ずつ大切に味わいたい」、そういう思いになります。

 


 

脱サラし41歳から漁師を目指す

実は佐藤さん、漁師になる前はサラリーマンをしていました。生まれは日本海側の浜益村(現・石狩市浜益区)。祖父、父、2代続けてニシンの網元でしたが、佐藤さんの幼少期に漁師を廃業。一家は札幌へ引っ越しました。以降、佐藤さんは海から離れた札幌で学生時代を過ごし、就職、結婚と、人生を歩んでいきます。

転機が訪れたのは、30代の後半。景気が右肩下がりとなり、会社は早期退職者を募りました。「このまま会社勤めをするよりは、好きなことで新たな道を進みたい」。そう思った佐藤さんは、趣味の釣りでよく訪れていた積丹町余別で漁師になることを思い立ちます。
 




41歳の時に家族で移住。地縁血縁のない土地での生活は、当初は大変なことも多かったそうです。約2年間の研修期間を経て、晴れて「東しゃこたん漁業協同組合」の組合員となり、「第八鳳洋丸」船主・船頭となりました。

余別地区のウニは、漁業協同組合が荷受けする以外に、漁業者自らが販売先を開拓しても良いという昔からの慣習があります。そこで新規就漁の佐藤さんは、レストランに販路を求めました。

その日の朝に採ったウニが翌日の午前中に届く鮮度に加え、余別地区特有の爽やかな甘さと質の高さ、そして細やかな手仕事により甘くて粒揃いのウニが使えるとあって、札幌の人気店、有名店の料理人が佐藤さんを指名するのも頷けます。
 



「ウニは生で食べることの多い食材なので、選別作業は気が抜けない。シェフたちの信頼を裏切ることになるから。自分の仕事はすべて自分に返ってくるものだから」と話す言葉に、漁師のプライドを感じました。

自然に抗わず、寄り添い共生する漁師の仕事に就いて16年。会社員時代は流通の仕事を経験して売る側の事情も理解し、また料理人との交流で使う側の思いにも触れている佐藤さん。さまざまな視点から漁業を捉え、浜と街をつなぐ佐藤さんの役割に寄せられる期待は大きい。そう感じた取材でした。

※2015年のウニ漁解禁は6月20日です。今回は特別に解禁前に取材させていただきました。

 

「大地を創る人」とは

さまざまなおいしい食を生み出す北海道を「大地」と表現。農業や漁業、酪農業を通し、「新しい北海道を創りたい」「北海道を支えたい」「未来の北海道をデザインしたい」。そんな思いを胸に抱く北海道の生産者を、「大地を創る人」としてご紹介します。