大地を創る人。おいしい〝本物〟のチーズができるまで。十勝で牧場経営をする宮嶋望さん



片側に白樺並木と松の林が広がる1本道。賑やかなカエルの合唱と鳥のさえずりが響き渡る大自然の懐で、牛を育て、搾った牛乳からチーズをつくっている農事組合法人共働学舎新得農場。代表の宮嶋望さんに話を聞きました。

 

自立支援を目的に

共働学舎新得農場の朝は早く、4時30分には牛当番が牛舎に集まります。掃除をしていると今度はチーズ当番が出てきて、夜のうちにたまった牛乳の殺菌作業を開始。「みんな自主的にこの時間に出てきているんですよ」。そう語ってくれたのは、代表の宮嶋望さん。
「以前は5時からでしたが、障がいのある子が誰よりも早く来て仕事を始めるようになり、その頑張りを見た他のみんなもそれより早く来るようになった。僕は現場のことは基本、彼らに任せているので傍観していたら、その後イタチごっこが展開されて、危うく3時開始になりそうな雰囲気で(笑)。さすがに止めて、この時間に落ち着いたんです」。





共働学舎新得農場は、不登校やひきこもり、障がい者と呼ばれている人たちの自立支援を目的としてはじめた牧場です。宮嶋さんはここに集うメンバーが、働いて生活を成り立たせられるような労働の環境、仕組みをつくってきました。

 

牛乳だけでは食べていけなくて

最初は6頭の牛を飼うところからのスタートでした。次第に増やしていくつもりでしたが、牛よりも、ここで働きたいと集う人が増える方が早く、数年で「牛乳だけでは食べて行けない」という危機に立たされました。
そこで牛乳に付加価値をつけようと、チーズづくりに着目。「世の中から見ればなにごとにもゆっくりな彼らとものづくりをしていくには、時間をかけることで価値が出るものがいいと思ったんです」。





とはいえチーズは、寝かせている数年の間は収入が得られず、しかも寝かせたからといって売り物になるチーズができるかどうかの確証がありません。勉強のために出かけたチーズ工房でも、〝無理〟〝設備投資しても取り返せない〟と否定的な意見ばかりを聞かされました。「でも、反対されるとやりたくなるんだよね、性格的に(笑)」。モッツァレラチーズのような寝かせなくていいタイプのチーズは既に先発がおり、やるならやっぱり熟成系チーズです。覚悟を決めて、町の加工センターで製造を開始。その後、今の工場をつくり、お隣に牛舎を、そのまたお隣に熟成庫を建てました。



 

「本物」の味とは?

目指したのは「本物」の味でした。一般の人の頭の中には、根拠はないものの「本物」のイメージがあり、そううたえば売れると思ったといいます。でも「本物」ってなんでしょう。宮嶋さんはこんな考えに行き着きました。
── 日本の食文化は、豊かな自然に支えられてきた。自然の産物を採取し、微生物の働きに任せて漬物や納豆をつくった。人為的なことをせず、自然に寄り添って食を生み出してきた。それが多くの人がイメージする本物の食ではなかろうか。
それならチーズも可能な限り人為的なことを減らし、自然の仕組みに寄り添う製法をとれば、「本物が生まれ、売れると確信が持てた」。
そこで取り組んだのが「微生物コントロール」。もともと牧場の土は、微生物の働きが活発化される環境をづくりを行い、結果を出していました。チーズはその延長。チーズの味をつくる微生物が働きやすい環境づくりで、多くの人に認められるチーズを生み出したのです。

 

人も微生物も働きやすい環境を



都会で暮らしていれば、このような農的暮らしに憧れる人もたくさんいるでしょう。でも、宮嶋さんは笑います。「農的暮らしって、言葉のイメージは美しいよね(笑)」。まさに、現実は甘くありません。冬はマイナス20度を超える寒さの日もあれば、約70人のメンバーが食べて行くには「勉強が必要」です。「これまでいろんな問題を乗り越えてきましたが、モチベーションを失わずに続けてこられたのは、大学時代や社会人になってからも学び続けているさまざまな理系の知識があったから。やっぱり合理的な自信は必要です」。
人にも微生物にも「命令をしない」。そんな考えを持つ宮嶋さんは、相手を尊重し、大らかな眼差しを向け、働きやすい環境を生み出してきました。温かなハートと合理的な考えの持ち主です。




 

関連リンク

共働学舎新得農場

 

「大地を創る人」とは

さまざまなおいしい食を生み出す北海道を「大地」と表現。農業や漁業、酪農業を通し、「新しい北海道を創りたい」「北海道を支えたい」「未来の北海道をデザインしたい」。そんな思いを胸に抱く北海道の生産者を、「大地を創る人」としてご紹介します。