北にきらめく作家に出会う「北海道立文学館」



札幌には敗戦の前後にかけて出版業が本州から集まり、文学者の交流も盛んに起こりました。いまも文学賞に輝く道内作家が、数多く活躍しています。札幌市街地のオアシス、中島公園にある北海道立文学館を、学芸員の吉成香織さんに案内していただきました。

 

資料散逸の危機!人びとの熱意で生まれた文学館

北海道立文学館(以下:文学館)は、北海道の開基100周年を前に1966(昭和41)年開催した、「北海道文学展」に遡ります。当時、文学展を札幌の百貨店で開くために作家や遺族、道内の愛好者が協力して、初版本や原稿など貴重な資料が集まりました。「これらの資料も期間が終われば道内外に散逸してしまう」。北海道の文学を後世に残すべく、危機感を抱いた当時の作家や愛好者が設立運動を展開し、開館の世論を高めました。





道内の文学愛好者たちの活動によって誕生した1970年代の文学館は、時計台や札幌市資料館の中での展示でした。財団の設立を経て20年前の1995(平成7)年、ようやく現在地に道立施設として開館。学芸員8年目の吉成さんが出迎えてくれました。




 

常設展「北海道の文学」

まずは常設展から拝見。北海道文学の資料を集め保存する収蔵点数は、実に約26万点。常設展では約1,000点を使い、郷土ゆかりの作家を紹介しています。入口すぐのコーナーは「文学館アーカイブ」。新たに文学館に加わった資料や、小さなテーマで年に4回替えています。訪れた時は北海道の文学に存在感を放つヒロインの展示でした。





吉成さんが手にするのは古い雑誌。「今から半世紀前に発表された三浦綾子作『氷点』の主人公、辻口陽子に関する特集です。三浦作品は海外でも高く評価され、国内では幾度も映画やドラマとなりました」(吉成さん談)。次は薄型の引き出し。ここには何が?





引き出したのは、同じく三浦綾子の原稿。綾子は病気のため、作品の多くを口述筆記により夫婦でつくり上げました。旭川の三浦綾子記念文学館では、豊富な資料が見られます。

こちらのケースには端正に綴られたノートが。北海道にはアイヌの人たちが、口承で伝えてきた美しい文学があります。明治時代、政府の政策で開拓や教育がなされアイヌの土地や文化の継承が困難になりました。そんな時代、知里幸恵(ちりゆきえ)というひとりの少女が、アイヌの神謡を書き残そうと決意。祖母や伯母から聞かされた、神謡(カムイユカラ)の音をローマ字表記で書き取り、日本語の対訳を付ける作業に挑みました。





言語学者の金田一京助の助力で、幸恵は翻訳作業を進めるも、本の発行直前に19歳で急逝。幸恵の死後に出たのが「アイヌ神謡集」です。「姪の遺志を伯母の金成(かんなり)マツが引き継ぎました。マツが筆記したノートが約50冊文学館にあり、今もアイヌの文学を研究する方が利用しています」(吉成さん談)。
幸恵の弟で、のちにアイヌ初の北大教授となった言語学者、知里真志保(ましほ)の直筆ノートは、北海道の土地柄を感じる資料。常設展では戦中・戦後や、近年に活躍した多彩な文学者を紹介しています。





取材に訪れた5月下旬は、特別展「没後1年・渡辺淳一の世界―『白夜』の青春 リラ冷えを往く」と題し、多くのヒット作を出した渡辺淳一を紹介していました。今年度は、大正期の挿絵作家展が夏に、そして秋には谷崎潤一郎展が企画されているとか。
「特別展では、北海道ゆかりの作家紹介から枠を広げ、文学に親しみを感じるような企画をしています。過去にはムーミンの世界展やジブリの展示も行い、幅広い世代で賑わいました」(吉成さん談)。




 

文学碑で巡る北海道の旅

小説や紀行、エッセイ、短歌や俳句ほか文学は多彩。親しみあるジャンルに注目して、北海道を文学で旅するのもお奨め。多くの文学碑が道内各地にあり、作家が残した足跡が見られます。








例えば漂泊の歌人、石川啄木。彼の文学館は盛岡にありますが、啄木は短い生涯で強く北海道に惹かれました。文学館では啄木を北海道ゆかりの人物と位置づけています。啄木は函館、小樽、札幌、釧路と仕事を求め、まちを転々としました。石川啄木一族の墓がある函館の函館市文学館には、啄木の資料が多数あります。
札幌市内にもよく見ると、啄木の文学碑が。





大通公園3丁目には石川啄木像があり、行き交う人を見守ります。

しんとして 幅廣き街の
秋の夜の
玉蜀黍(とうもろこし)の焼くるにほひよ


/1910(明治43)年「一握の砂」に収録





このように文学碑はあちこちにあります。旅行中や休日の散策に、文学に着目すると楽しくなることでしょう。啄木も、札幌でトウキビを食べたのかも。

吉成さんによれば、地元の人だけでなく、旅行や札幌滞在中の人が文学館を利用することも多いとか。「暑い東京を離れてホテルに連泊しながら、当館に通って北海道の作品をお読みになる方もいらっしゃいます。札幌の祖父母宅に連泊して、当館の『夏休み文学道場』で小説をつくるお子さんもいます。ぜひご利用ください」(吉成さん)。
北海道立文学館で過ごす豊かなひととき。一度訪れてみてはいかがでしょう!



 

交通アクセス

(1)地下鉄から徒歩で/ 南北線「中島公園」駅3番出口から徒歩約400m、看板あり
(2)市電から徒歩で /「中島公園通」停留所で下車し徒歩約500m、看板あり
(3)マイカーで / 駐車場(7台)に限りがあるため公共交通をご利用ください
 

関連記事

「氷点」誕生から50年。三浦綾子記念文学館で過ごすひととき
日本を代表する文豪は、北海道生まれでした。「井上靖記念館」