大地を創る人。いのちをつなぎ、未来をはぐくむ。十勝の酪農家、新村浩隆さん

「放牧牛乳」「ミルクジャム」といった商品を通して、ご存じの方もいるでしょうか。今回ご登場いただくのは、上士幌(かみしほろ)町の十勝しんむら牧場代表取締役社長、新村浩隆さんです。自然と調和し、生態系の循環を利用した土づくりを行い、牛を牛らしく飼う。そんな酪農を実践している同牧場の〝おいしさ〟の秘密をお伝えします。
 
 
 
 

誰でも安心して飲める牛乳を

とろり、ゆるすぎずかたすぎない食感と自然な甘さで、パンやスコーンを格段においしくしてくれる十勝しんむら牧場の「ミルクジャム」は、日本で第1号の国内産ミルクジャムです。発売された2000年から、牧場敷地内に立つ工房で手づくりされています。
 
 
 
 
自社で販売している「放牧牛乳」と北海道産グラニュー糖を煮詰めるだけのいたってシンプルなレシピですが、牛乳の脂肪などといった成分は、食べものや天候で日々微妙に変化するもの。同じ味のジャムを提供するために、その日に搾った牛乳の味、状態を作り手の目で舌で確かめてから、火を止めるタイミングを決めています。
 
 
 
 
原料となる牛乳は「放牧牛乳」の名称通り、1年中、放牧されている牛から搾っています。「それが牛の本来の姿だと思うので」と、同牧場4代目の新村浩隆さん。牛を牛らしく飼うため放牧酪農を選択したといい、人から牛への負荷も極力かけぬよう、給餌や搾乳以外はあまり「接しない」ことが同牧場のルールです。
 
 
 
 
放牧地は広く、搾乳する場所から最も遠い場所で2kmほど距離がありますが、牛たちは炎天下でも嵐でも、毎日同じ時間に自ら歩いて搾乳にやってきます。そんな良好な信頼関係を築けるようになったのは、「誰もが安心して飲めるおいしい牛乳をつくろう」と牧場の土づくりに着手して以降。それまでは追っても、なかなか言うことを聞かなかったというから大きな変化です。
 
 

新村さんが思う「いい土」とは 

 
 
新村さんが考える「いい土」とは、土中における生態系の循環が活発になされている土です。痩せてしまった土には、ミミズすらいません。微生物も昆虫も元気に活動している強い土をつくれば、牛糞の分解の勢いが増し、堆肥ができ、草がその栄養素を吸収。草は栄養価をたっぷり含んでおいしくなり、それが牛を健康にし、乳の食味をよくします。
 
新村さんはそんな考えのもと、約70haある牧草地の土をアメリカの専門機関に送り、分析。その結果に基づき、必要な肥料を与えて土中の環境バランスを整えていきました。土が牛がかわってきたと手応えを感じたのは、始めて5年くらいたってから。「牧草地を掘ったら、牧草の根が80cmまでのびていました(笑)。いい土の証拠です。専門家によると、なかなか見られない現象らしいですよ」。
 
 
 
 
これでうまくいくのかと不安になった時には、業種と問わず活躍している知人友人の成功談が〝効き〟ました。「いつかはおれも」。そんな前向きな気持ちになれたといい、人は「財産」だと語ります。「加工品に挑戦する時に、ミルクジャムのヒントをくれたのも仲間。迷っている時にいつも背中を押してもらっています。いろんなひとの話を聞くことで、柔軟な発想ができるようになりますね」。
 
 

酪農の仕事にはよろこびがある 

 
 
目指しているのは土、草、牛、牛乳、乳製品、人が循環していくよりよい環境づくり。同牧場の経営理念は「食べる人のための農業を実践し次世代に継承しつづける企業」。放牧酪農を通して地球の未来をもはぐくみ、次の時代にしんむら牧場を継承していくことが使命だと意欲を見せます。
 
「乳は、私たち哺乳類が最初に口にするもの。言うなれば、いのちの源です。牛の乳は飲み物としてだけでなく、加工もされ、人々の食を豊かに支え、次のいのちを育んでいきます。ですから酪農は、いのちをつなぐ仕事なんですよ」。 静かに語られたそのことばからは、酪農に誇りを持ち、よろこびを感じながら仕事に取り組む新村さんの姿が垣間見られました。
 
 
 
 

関連リンク

十勝しんむら牧場 オフィシャルサイト
十勝しんむら牧場 オンラインショップ
 
 

「大地を創る人」とは

さまざまなおいしい食を生み出す北海道を「大地」と表現。農業や漁業、酪農業を通し、「新しい北海道を創りたい」「北海道を支えたい」「未来の北海道をデザインしたい」。そんな思いを胸に抱く北海道の生産者を、「大地を創る人」としてご紹介します。