大地を創る人。十勝で大規模な無肥料自然栽培を〝開拓〟する折笠健さん

 
 
北海道随一の農業地帯、十勝の幕別(まくべつ)町で、JAS有機管理のもと無肥料無農薬の作物の生産に挑戦している農業人がいます。「私たち十勝に住む人間は、開拓者の子孫だという誇りが心の根底にあると思うんです」。折笠(おりかさ)農場の折笠健(ますらお)さんの、開拓者スピリットに迫ります。
 
 

おいしい安心安全の作物を妥当な価格で

 
 
さやあかね、インカのめざめ、シャドウクイーン、ノーザンルビー…。かたちも色もさまざまなじゃがいもを、撮影用にと用意して待っていてくれた折笠健(おりかさ・ますらお)さん。「さやあかねは自然栽培で、あとのは特別栽培」。ほかにもきなこや小麦粉といった加工品を広げ、「これらの材料になっている大豆、小豆、黒千石、小麦粉も自然栽培です。うちは、肥料や農薬を一切使わない、世界レベルで安全安心の作物の供給に挑戦している農場なんです」。
 
 
 
 
自分に課しているのは、「おいしいもの」をつくること。無肥料無農薬だから、特別栽培だから必ずおいしい、というわけではありません。おいしくするにはやはりそれ相応の研究や努力が必要。折笠さんは土壌学や育種学、昆虫学といった専門家に協力を仰ぎながら、科学的根拠に基づいた継続と、高品質な自然栽培の作物を目指しています。
 
また慣行栽培の作物に比べると販売価格が高価である現状を脱し、「妥当な価格で販売できるような、栽培技術と流通の構築をしていきたい」という思いも。「そこまで追求できれば、消費者への責任を果たしたと言えるのではないかと思うんです」と、食を支える農業人としての責任感をにじませます。
 
 

自己満足で終わることなく成果を出したい

 
 
畑は、緑肥用も含め95へクタールを稼働させていますが、最初は2ヘクタールからのスタートでした。苦労するのは、草取り。作業の大変さに加え、取ろうと思っていた日に雨が降ったり、なかなか思うようにいきません。また、害虫の影響もあります。ある年の小豆には、作物の色がかわるほどびっしりとアブラムシがついてしまい、この時はさすがに、やめようかという気持ちになったといいます。
 
それでもやめなかったのは、はじめるときに、「絶対に慣行栽培に戻らない」と決めたから。「そう決めたからこそ、じゃあどういう品種を育てるべきなのか、どんな人の協力が必要なのか、理想の農業を実現するための方法を真剣に考えるし、アイデアも出てくるんです」。
無肥料無農薬に取り組んでいるという「自己満足」で終わることなく、「消費者に喜んでもらう」という成果を確実に出していきたいのだと語ります。
 
 
 
 
また、「求められているものをつくるのがいちばんのよろこび」とも。無肥料無農薬の作物は需要が高まっているため、今後は販売店から、近い将来足りなくなるであろう、北海道で栽培してほしい作物を教えてもらい、「そのうえで、われわれの役割とはなにかを考え、得意な分野で、必要とされているものをつくっていきたいですね」。
 
 

開拓者のスピリットを宿して

折笠さんの曾祖父母と祖父母は開拓者。福島からの入植です。「私たち十勝に住む人間は、こうして近い血筋に開拓者がいるので、その誇りが心の根底にあると思うんです」。
 
開拓の歴史は厳しく、折笠さんが小学生の頃はまだ、地域一帯の農家はそれほど裕福ではなく、冬になるとおとなは、出稼ぎに出ていた時代が続いたといいます。
 
 
 
 
そんな中、折笠さんの父は当時としては相当にめずらしく、自分でつくった野菜を自分で売って歩いていました。「販路の開拓をしていましたね。今でも折笠農場の野菜や加工品は、父が繋いでくれた近畿や東海地方の大手販売店におろしています」。彼らから頼まれたものをつくったり、こちらから提案したり。父のやってきたことが支持され、選ばれてきたから、「今がある」と語ります。
 
折笠さんの名前「ますらお」は、そんな父が名付け親。「大丈夫(※)のような男になれ」という願いが込められているのでしょうか。強く勇ましく、自分が進むべき未来を開拓する。それが折笠家に伝わるスピリットのようです。
 
 
 
 
※大丈夫…ますらお。強く勇ましい男子、立派な男子。(明鏡国語辞典より)
 
※有機栽培…使用が禁止された化学肥料や化学合成農薬を3年以上使っていない畑で、禁止資材を使わずに生産すること。商品には、有機JASマークがついている。(農水省の規格あり)
 
※特別栽培…化学肥料や化学合成農薬を、慣行農法の半分以下に減らして栽培すること。(農水省の規格あり)
 
※自然栽培…肥料や農薬を一切使用せず、土や植物の力を生かして農作物をつくること。(厳密な規格なし。ただし折笠農場は有機JAS管理のもと農作物をつくっています)。
 
 

「大地を創る人」とは

さまざまなおいしい食を生み出す北海道を「大地」と表現。農業や漁業、酪農業を通し、「新しい北海道を創りたい」「北海道を支えたい」「未来の北海道をデザインしたい」。そんな思いを胸に抱く北海道の生産者を、「大地を創る人」としてご紹介します。