大地を創る人。潮風が吹く畑で愛情を持ったアスパラづくり。函館の大槻寅男さん

 
 
函館市の「農事組合法人 函館つるの生産組合」理事の大槻寅男さんは、グリーンアスパラ「海の神」の産みの親です。「朝霧の中の作物を見ていると、愛情が湧いてくるんです」。大自然の営みを慈しみながら、海を見下ろす高台の畑で毎日仕事をしています。
 
 

やわらかでコクのある「海の神」

バターで香りよく炒めたり、ベーコンを巻いたり、茹でたてにマヨネーズをかけたり。いろいろな食べ方が楽しめる春のおいしい野菜といえば、アスパラ。北海道では4月中旬~下旬頃から出荷が始まり、大槻寅男さんが理事を務める「農事組合法人 函館つるの生産組合」でも、この時期は毎日、収穫、梱包作業で大忙しです。
 
 
 
 
アスパラを栽培するビニールハウスが並ぶ畑は、津軽海峡や函館山を望む高台にあります。畑の後ろには広葉樹で覆われた里山が連なり、一角には美しい桜並木も。そんな風光明媚な場所で育まれたアスパラは、極太の2Lサイズ以上が「海の神」として売られます。
 
 
 
 
サッと炙ってかじってみると、水分がジュワーッ。とてもみずみずしく、甘くてコクが感じられる味わいです。「科学的根拠はないんだけど、海からの潮風と山からの伏流水も、アスパラをおいしくしていると感じるんだよね」と大槻さん。
土から上に出ている長さが27cmくらいの時が、旨みが全体に行き渡った収穫の「適期」。毎日グングン伸びるアスパラですが、このタイミングを逃さず収穫することで、裾までやわらかで、食味のよいアスパラを提供できるのだといいます。
 
 

おいしいアスパラをつくるために 

 
 
北海道に入植して3代目となる大槻さん。すぐには農家を継がず、しばらくは外でもさまざまな仕事に就き、専業となったのは30代後半~40代前半。当時の仕事はJAの野菜の運搬。続けていくなかで、「愛情を持って作物を育てる方に専念したい、という気持ちになったんです」。
最初は両親と一緒にじゃがいもやきみ(とうもろこし)をつくっていましたが、「昔、この辺に住んでいた漁師が、兼業でホワイトアスパラをつくっていたのを思い出し」、アスパラ栽培に挑戦することに。まずは土づくりですが、一般的に多用されている化学合成肥料を使うのは気が進まず、海藻を施肥していた祖父母の農法を参考にします。
 
 
 
 
「いろいろ試した結果、この地域で全国一の生産量を誇る真昆布の根や、魚介の残渣をブレンドした有機質肥料を使うことになりました」。そして土壌の質を保つためには、砕いた微量の木炭を土に混入。また、農薬を散布するのは、収穫が終わったあとの畑に1回だけ。このようにして、おいしい「海の神」は生まれたのです。
 
 

大自然の営みの前で、無垢な気持ちで

 
 
目下の目標は、自分が育てるアスパラすべてを「海の神」にすること。つまりは太くて大きなサイズに仕上げることですが、作物のできには天候が影響するため、「そう簡単にはいかない。一生かかっても成し遂げられないかもしれないね」。
最近は、データや理論に頼りすぎた新規就農者が、その通りにいかない現実に耐えきれず数年でリタイアしてしまうケースが見られるといいますが、「相手は自然。理想の通りにいくわけがない」。しっかり収入を得るだけの結果を出すには、自分の足で畑に出て、まじめに汗をかくことが肝要だと力説します。
 
 
 
 
「朝日がのぼる時間に畑に行くと、海からあがってきた霧が畑を覆う、とてもきれいな光景が見られる瞬間がある。乾いた作物に霧の水滴が落ちて、作物がそれをどんどん吸収する。その様子を見ていると、不思議と作物に愛情が湧いてくるんだよね。農業を続けるには、こういう気持ちが大事じゃないかな。データや理論の前に、大自然の営みと向き合う時間が必要」。大槻さんは、そうでないとおいしい作物は作れないと続け、こうも語ってくれました。「大いなる自然の中で行う農業は、無垢な気持ちで取り組む仕事だと思うんです」。
 
 
 
 

「大地を創る人」とは

さまざまなおいしい食を生み出す北海道を「大地」と表現。農業や漁業、酪農業を通し、「新しい北海道を創りたい」「北海道を支えたい」「未来の北海道をデザインしたい」。そんな思いを胸に抱く北海道の生産者を、「大地を創る人」としてご紹介します。