小樽で見つけた春色。「群来(くき)る」海の白

 
 
昭和20年代に北海道で姿を消したニシン。ここ10年ほどはニシンの漁獲が増えており、産卵行動で沿岸が白く染まり「群来(くき)る」さまは、北海道に春を告げる光景です。海が群来る様子について、小樽市総合博物館の石川さんと山本さんに聞きました。

 

海一面が真っ白に?!

 
 
近年12月から3月頃にかけて数度、小樽ではまれに群来ている光景が観察されています。群来なかった年もあり、毎年起きる、あるいは毎日見られるなどの約束が一切できない自然現象。ですから博物館に勤める学芸員の中にも、実際の群来た海をまだ見たことがない人もいるとのこと。今回は、小樽市総合博物館で過去に撮影した写真でご紹介します。
 
 
 
 
 
 
「ニシンは産卵期になると、ホンダワラなどの海草が豊富な浅い浜辺に集まり、メスが卵を産み付けてオスが放精します。この産卵行動で海面が白濁することを「群来る」というのです。群来たことを知るには、カモメが乱舞しているなど海の変化に注意を払うことが大事で、私もまだ6回くらいしか、群来た海を見ていません」(石川さん談)。
 
 
 
 
「私の経験で言うと、ひな祭りの時期近くに群来ることが多い印象があります。博物館でひな祭りの飾り付けに忙しくしている時に、『群来た!』という知らせが入ることが数度ありました」と語る石川さん。
現場に駆けつける間にも、波に拡散されて白濁はどんどん薄まってしまいます。地元の新聞社では、発生の報が入るとヘリを飛ばして空撮するくらい、群来る海の様子は珍しい現象なのです。私達が見るのがいかに難しいかが伝わってきますね。
 
 

ニシン資源のむかし・いま

1897(明治30)年、北海道全域でニシンは約130万石(約97万t)も獲れ、近代以降の統計で最高の漁獲高を記録しました。かつては大型のものが獲れたようですが、ニシンは忽然と姿を消しました。理由は乱獲や海水温の上昇など諸説あり、そのためいまのニシンは、当時のものとは種類がやや異なるようです。最盛期のニシン漁は2月から5月まで行われ、本州各地から多くの出稼ぎ人がニシン漁と加工に雇われ、田植えの時期に間に合うように、親方から得た賃金を手にそれぞれの村に戻ったといいます。
 
 
 
 
かつては道内の日本海沿岸に、ニシン漁で賑わった村がたくさんありました。泊村から小樽に移築された旧田中家、余市町の福原漁場、留萌市の旧佐賀家漁場、小平(おびら)町の旧花田家番屋など、現在も多くの歴史的に貴重な番屋が残っています。浜でのニシン加工はどんな様子だったのか。博物館では運河館で、当時使われていた道具や屏風絵をわかりやすく展示しています。
 
 
 
 

ニシンで賑わった漁村

ニシンで賑わった、名だたる生産地と消費地とをつないだのが北前船(きたまえぶね)、「1航海千両」と言われた買積船(かいづみせん)で、いま風に言えばさながら“海の総合商社”ともいうべき船です。
 
 
 
 
 
 
この古い写真もニシンの盛業をよく表しています。忍路は江戸時代後半、ニシンの漁期のみ道南から漁夫が集まる集落でした。江戸時代の末期に定住者が増えて、北前船やニシン漁の拠点の集落となりました。石置き屋根の多くは、ニシン漁に携わる人の住居や、交易に携わった商家。かつてはニシンが獲れに獲れ「金の使い道に困る」といった逸話が道内各地に残るほど、大きな経済効果を生みました。そんな隆盛の様子が伝わるのがこちら。
 
 
 
 
「1903(明治36)年に描かれた『鰊盛業屏風』、この屏風は六曲一双で、向かって左から右手方向にかけて、ニシンを陸(おか)に上げて加工する小平の番屋のさまを描いています」と話す山本さん。全幅およそ8m、じっと見入っても飽きない筆致で、当時の漁の賑わいを緻密に描き込んでいます。
 
 
 
 
 
 
明治時代、ニシンは9割が魚肥としての用途でした。いまと同様、食料との認識は当時ありましたが、それ以上にニシンは畑の肥料という認識だったのです。ニシンは煮て圧搾し、乾燥させパウダー状にして〆粕に加工。北前船で西日本に運ばれて高値で売られ、藍や養蚕に必要な桑の葉、綿、菜種を栽培する肥料に重宝されました。127年前の明治中期の記録には「肥料は鯡粕(にしんかす)の外なきもの」という賛辞が残っています。
 
 
 
 
「この写真は1932(昭和7)年4月17日に張碓海岸で群来た様子を撮影したものです。網を持っている人達は、白濁した海に入って直接ニシンをすくい取っています」(山本さん談)。浜に押し寄せるニシンに、村は喜びに沸き立ったことでしょう。
 
北海道が春めく頃、小樽の海がよく見える日は、ぜひ豊かな想像力を駆使して、一面に群来る海を心にイメージしてみてはいかがでしょう。
 
 
 

小樽市総合博物館・運河館 交通アクセス

(1)JR札幌駅から列車で
JR札幌駅から快速エアポート(所要時間30分強)か普通列車(約50分)にてJR小樽駅で下車。駅前中央通りを小樽運河に向かって約600m進む。突き当たり交差点の左手「小樽運河プラザ」に隣接する石造りの建物が、小樽市総合博物館・運河館。徒歩約8分。
 
(2)JR札幌駅からバスで
JR札幌駅に隣接の「エスタ」バスターミナル1Fの1番乗り場から始発の「高速おたる号」に乗車。始発以外に市内8箇所のバス停からも乗降可。札樽自動車道を通り、終点JR小樽駅ターミナルまで1時間強。以下(1)を参照。