釧路市立博物館で道東を知る、冬の旅へ

 
 
釧路市立博物館は、道産子が学校行事で訪れることの多い定番スポット。凍てつく道東の冬、湿原や海の中では多様な生物が暮らしてしていることをご存じですか?大人も一緒に道東早わかり。学芸員の山代淳一さんと博物館を巡りました。
 
JR札幌駅から特急列車で約4時間。釧路駅を下車して、裸婦の彫刻があしらわれた市のシンボル幣舞橋(ぬさまいばし)を通り、春採湖(はるとりこ)を見下ろす丘に建つ博物館に到着。
 
 
 
 
印象的な建物の外観は、翼を広げたタンチョウをイメージしています。釧路市出身の建築家、毛綱毅曠(もづなきこう:1941-2001)の作品。中では学芸員の山代淳一さんが出迎えてくださいました。
 
 
 
 

収蔵庫から大発見!クシロムカシバク

3層のフロアで構成された展示は、古い時代から現在までの生物、釧路の海、先史・近世・近代や、アイヌ民族、タンチョウなど多彩で、道東らしさが見てわかるようになっています。山代さんに続いて進みます。
 
 
 
 
「釧路の大地コーナーでは、この展示に注目を」と示されたのは、小さなアクリルの半球に入った茶色の物体。地学が専門の山代さんは、いまの釧路市立博物館の建設が進み、そのオープンを翌年に控えた1982(昭和57)年に就職。新たな博物館にふさわしい資料を確認すべく、収蔵庫から探し出したのが「昭和43年、釧路町十町瀬(とまちせ)」と記された古い箱でした。
 
 
 
 
この箱には、当時中学生だった兄弟が十町瀬海岸で発見した、動物の化石の一部が入っていました。山代さんがこの化石を北海道教育大学釧路校に持ち込んだところ、話が急展開。上野の国立科学博物館に写真を送ると、科博の専門家が即飛んで来たほどの大発見だったのです。鑑定の結果、世界で初めて見つかった古第三紀、約3,800万年前のほ乳類、ヘラレテス科バク上科の新種と判明。この系統の化石は、北米大陸から比較的多く見つかっているため、アジアを経由して北米大陸と釧路が陸続きだったことを示す証拠でもあります。
 
この化石は釧路に昔棲んでいたバク、「クシロムカシバク」と名づけられました。いまは東南アジアや南北アメリカ大陸の水辺に棲息する、外見がゾウやウマあるいはブタに似た温厚な動物のご先祖様です。こうして、手のひら大の骨片だったものは、クシロムカシバクの名がつき、博物館でピカイチの資料となったのです。
 
 
 
 
釧路市立博物館には山代さんの地学を始め、植物、昆虫、魚類、産業、近世の歴史、鳥類、考古という多様な分野に詳しい10名の学芸員が勤務。来館者の質問も歓迎しています。2013(平成25)年には、博物館友の会が館内の資料について学芸員から学び、解説を補助する音声ガイドをつくりあげました。展示だけでは伝わりにくい情報を、画像と文字、音声で補足したタブレット端末は無料なので、ぜひ活用したいツールです。
 
 

海に守られた釧路

「釧路の海コーナー」に来ました。太平洋に面する釧路は霧が多く、夏の平均気温も約20度と低く、海風が吹くまち。冬の厳しさもさぞかし・・・との予想は大ハズレ。暖流は、こんなに北の釧路沿岸まで力強く温かい海水を運んできます。そのため高緯度にありながら太平洋岸の釧路市は、内陸部のように激しい低温にはならないのです。
ちなみに水中の生き物にとって釧路沖は海流がぶつかる潮目で、陸から栄養豊富な水が運ばれ、プランクトンが豊富な豊かな海。ですから海獣たちもエサに不自由せず、大変ビッグです。海獣コーナーで最も新しい資料は、天井近くにありました!
 
 
 
 
釧路沖の調査捕鯨で捕獲したミンククジラは体長約7.5m、マイクロバスくらいの長さです。「クジラが進化する中で不用となった骨に、骨盤があります。外見から見ることはできませんが、骨格標本だと小さな骨があるので注目してみてください」(山代さん談)。
 
 
 
 
クジラは大きな生き物だなと感じるのは、こちらからも可能です。らせん階段から見下ろしたアーチ状の物体。ほ乳類最大のシロナガスクジラの下顎の骨で、全長だと実に25m超!列車1両が約20mですから、本当に巨大な生き物ですね。
 
 

湿原を知り、道東の自然を楽しむ!

空路釧路に降り立つと、眼下に拡がるのが広さ日本一の釧路湿原。タンチョウも空港の名に冠するくらい、道東の代名詞となっており、博物館では湿原やタンチョウの展示にも工夫がなされています。
 
 
 
 
道東や道北の低地に多く見られる湿原は、水はけの悪い価値のない土地ではなく、雨水を受け止め、ヨシなどの植物で覆われるため、多くの生き物が育ちます。さらに栄養を海に運ぶなど多くの機能があるのです。ここでは長い年月をかけて湿原にできる、スゲの根元が盛り上がった植物「ヤチボウズ」や、幻の魚イトウを、いろんな角度から見ることができます。
 
4Fにも展示の工夫があります。「直径10mの半球を使ったタンチョウのドーム型ジオラマも、ぜひご覧ください。右手には初夏の光景、左手には冬の湿原が表現されています。ここでは7月上旬のタンチョウの子育ての様子と、冬のタンチョウの美しい求愛ダンスが見られます」(山代さん談)。
 
 
 
 

アイヌの人びとの生活と美

 
 
取材時(2014年11月15日)、4Fアイヌ民族のコーナーにはマレーシアからのJICA(国際協力機構)研修生が見学。山代さんの説明に耳を傾け、熱心に質問をしていました。
 
 
 
 
このコーナーでは北海道をはじめ、遠くは樺太や千島アイヌの人たちがかつて使っていた品々を展示しています。普段の暮らしに必要なものから、祭事や神事に欠かすことのできないものまでを、トータルに知る展示となっています。「衣服の展示で、魚皮衣(ぎょひい)という、魚の皮からつくった服があります。小学生の団体見学の際に『あの衣服は1点だけ、他の衣服と材料が違います。そばに行ってよく見てごらん』と説明します。する子ども達から『魚のうろこが見える〜!』と一斉に歓声があがるんですよ」(山代さん談)。
 
 
 
 
こちらは儀式の際に、人間の言葉を神様に伝えた道具イクパスイ(捧酒箸)。ケースをじっとのぞき込むと緻密な彫刻は1点1点が異なり、見飽きることがありません。ほかにも本州から交易で得た、螺鈿(らでん)を隙間なくはめ込んだ漆の酒器など、美しい品々があり圧巻です。こちらはどんな人がつけていたのでしょうか。交易で得た玉をもとにしてつくった首飾り。
 
 
 
 
あらゆるものにカムイ(神)が宿ると信じ、カムイと対話して豊かな自然と共生する。古くからそんな価値観を持って暮らすのが、アイヌの人びと。釧路から遠い地域に出かけて交易し、神様に喜んでいただくため、コタンを治めるために、希少な品を集めたのかもしれません。
 
道東の豊かな自然を感じながら、そこに暮らした人びとの宝に会いに、釧路市立博物館を訪れてみませんか。
 
 
 
 

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