情熱の仕事人。北海道の「食」の魅力を、伝え、つなぐ。フードライター「小西由稀」

 
 
レストランの厨房はもちろん、畑、牧場、漁港、ときには漁船の上と“仕事場”は様々。食を起点に幅広く活躍する北海道の輝く女性の一人、フードライター小西由稀さん。活動の根底にある思いをうかがいました。
 
 

「おいしくて楽しい」。子どもの頃に教わった食の魅力

お皿の上の料理がなぜおいしいのか。小西さんはその“おいしさの背景”を探究し、北海道の食の魅力を伝え続けています。柔和な笑顔で、ときに真剣な眼差しで、ていねいに話をしてくれました。
 
 
 
 
室蘭で寿司店を営む家庭に生まれ育った小西さん。忙しく働く両親が何より大切にしていたのは、家族そろって食卓を囲む時間でした。
「お店があるので家族で旅行することはできなかったけれど、その代わりに、お取り寄せしたおいしいものをみんなで食べることが小西家にとってのレジャーだったんですよね」。
調理の舞台裏が身近だったこと、そしておいしく楽しい食の体験が、小西さんの今に結びついているようです。
 
短大を卒業して出版社に勤め、その後1995年にライターとして独立。グルメブームだったことや、実家が寿司店ということもあり、当初から食の記事の依頼が多かったといいます。とはいえ、自身の活動テーマを食と決めていたわけではありませんでした。
 
 

「北海道の食って面白い!」。生産農家の取材が転機に

フリーの道を歩き始めて数年後、転機が訪れます。北海道の食の通販本の仕事で農業班を担当し、10品目ほどの野菜の生育過程を1年かけて取材。港町生まれの小西さんにとって、それまで畑はほぼ未知の領域でした。
 
「種まきから収穫までを見て聞いて、純粋に植物ってすごい!と感動して、育てる農家さんのありがたさも感じました。農業は長雨とか収穫前の台風とかで、苦労が一瞬にして無になることもある仕事。それでも自然に抗わず、寄り添いながら大らかに歩く農家のみなさんの姿に魅かれました。こういう生産者さんたちに会っていきたいなあと。
自分の中に漁業があって、そこに畑が加わって、北海道の食により面白さを感じ始めました」。
 
この経験がますます“おいしさの背景”へと関心を向かわせ、様々な食の現場へ足を運ぶきっかけにもなりました。例えば同じ野菜で、なぜ味も値段も違うのか。ものごとにはすべて理由があるということも、自然相手に仕事をされている方々から教わったことのひとつだといいます。
 
 
 
 
ライターとしての活動は全国発売の食の専門誌などへも広がり、北海道の食に関するコンテンツが依頼される仕事の9割を占めるように。「それで、フードライターを名乗ってもいいのかなって」。
 
道内各地の多くの生産者とつながりができ、天気予報を見る真剣度が変わったというのも小西さんらしいエピソードです。「雨が多かったら畑は大丈夫かなとか、波が高かったら明日は漁に出られないなとか。気になっちゃいますね」。
 
 

著書は食をつくる人の思い、臨場感たっぷりに

小西さん初の著書は、『おいしい札幌出張 45の美味案内』。2作目に『食のつくりびと 北海道でおいしいものをつくる20人の生産者』、そして昨年『おいしい札幌出張2』を刊行しています。
『おいしい札幌出張』は単なるグルメガイド本ではなく、各店の空気感や食べものの匂いまで浮かんでくるような筆致で書かれた、まさに“味わい深い”読み物。この2冊は視覚障害の方々への朗読会でも活用されているそう。「すごくうれしかった」と小西さんは目を細めました。
 
 
 
 
『食のつくりびと』は、希少な食材のつくり手を取材。栽培の工夫や試行錯誤、食にかける思い、農家の方々の魅力的な人柄が読み取れ、小西さんは“食の伝えびと”なのだなとつくづく感じました。
 
 
 
 

食のつくり手と食べ手を結びたい

「私はよくお皿の向こう側とこちら側という言い方をするのですが、向こう側が食材の生産者で、こちら側が料理人。料理人の方は、なぜその食材を選んでその料理をつくったのか。気持ちが気になるし、純粋に調理法にも興味があります。それに加えて、生産者の方たちがどういう気持ちで食材をつくっているのか。それぞれの思いを、食べる人に知ってもらいたいんですよね」。
料理を評論することではなく、つくり手の思いを伝えることが、小西さんにとってのフードライターの仕事なのです。
 
レストランで取材をして気になる道産食材があれば、北海道にはすぐに生産者に会いに行ける環境があります。双方のつくり手を取材し紹介できることが、フードライターの仕事の面白さであり、北海道で活動する魅力だとも教えてくれました。
 
 
 
 
書くことだけではなく、講演をしたりイベントを企画・運営したりと「伝える」活動の場は多方面に広がっています。
実行委員を務めるイベント「料理人の休日レストラン」(※)は、今年で4回目の開催。9月28日(日)に座学の「食べ学び」(予約制)が行われ、10月5日(日)には三吉神社(札幌市中央区南1西8)の境内で、ワンコインで楽しめる「料理人の屋台めし」、生産者によるマルシェが開かれます。地元の人はもちろん、この日札幌を訪れるみなさんもぜひ、思いたっぷりな北海道の食を楽しんでください。
※料理人の休日レストラン2014Facebookページ
https://www.facebook.com/kyuujitsu.chef
 
「健康のことだったり世の中の動きだったり、食はいろんなことを考えるきっかけになる一番身近なもので、いろんなことを変えていける力があると思っているんです。料理がおいしいということだけではなく、“おいしいの一歩先”を考えてもらえるとうれしいですね。生産者と料理人と生活者を結ぶ橋渡しをしていけたら」。
一言一言から、まっすぐな意志が伝わってきました。
 
週の半分はどこかで何かを食べて飲んでいるという小西さん。エネルギー源は「一日の仕事を終えて飲むお酒かな」とにっこりする姿が、自然体で素敵でした。