情熱の仕事人。エンターテインメントを通じて「北海道」を発信。クリエイティブオフィスキュー代表「鈴井亜由美」

 
 
札幌の芸能プロダクション、クリエイティブオフィスキュー。大泉洋さんが所属する演劇ユニット「TEAM NACS」など、役者・タレントをマネジメントする同社の社長で、プロデューサーとして活躍する鈴井亜由美さんの登場です。
 
 

役者からプロデューサーへ

会社員として働きながら劇団に参加し、自身も演じる側だった鈴井さん。プロデュースする側に転身し、会社務めを辞めて劇団の主宰者である鈴井貴之さんと立ち上げたクリエイティブオフィスキューは、2014年で設立から23年目を迎えています。

 

 
公演のための一切合切を劇団員で賄い、芸能活動の土壌のなかった札幌では劇団の維持自体が厳しかった時代。それでも夢を追って舞台に立つ役者たちがいました。
エンターテインメントを職業として成り立たせたいと、北海道で最初の芸能プロダクションを興し、前向きなエネルギーで常にチャレンジ。エンタメの力を信じ、鈴井さんはひたすら突き進んできました。
 
プロデューサーとして、役者をメディアに露出する機会を増やし、テレビ番組をはじめコンテンツの制作は企画段階から参画。キャスティング中心ではなく、コンテンツにこだわり、次へとつなげる道を切り開いてきました。
ローカル番組として始まった『水曜どうでしょう』(HTB)は、道内で圧倒的な支持を獲得。後に全国的な人気番組となり、オフィスキューの名も知られるところとなっていきます。
 
大泉洋さんほか、安田顕さん、森崎博之さん、戸次重幸さん、音尾琢真さんが事務所に所属するようになり、2002年から、5人による演劇ユニット「TEAM NACS」のプロデュースをスタート。個性も才能も5人5色のメンバーは、テレビやラジオでも活躍を見せ、道民に身近な存在となっていきました。
 
 

東京に進出して10年。軸は一貫して「北海道」

「TEAM NACS」の東京公演を機に、東京の大手芸能プロダクション・アミューズと業務提携を結んだのは10年前。「2004年、彼らが30代になる年でした。いろいろな人と出会い、北海道にいてはできないドラマや映画、本格的な舞台を経験させ、成長させてあげたかったんです」。
地元を愛し“北海道”を大きな個性に活動する役者陣の活躍ぶりは周知のとおりです。
 
北海道の人たちの目に、東京でも活動する姿はどう映るだろうか。当初、気がかりがなかったわけではないといいます。北海道にいるだけでは近すぎて見えなかったこと。それは、「北海道のたくさんの人たちが応援してくれている」ということでした。「改めて地元の人のあたたかさを感じています」と、鈴井さんは言葉を噛み締めます。
 
 
 
 
エンタメの様々なシーンで、楽しさを発信するオフィスキュー。
「社員はもちろんのこと、タレントにも、自分たちは『サービス業』なんだと一貫して言い続けています。お客さまあってのエンターテイメントですから、そこにはサプライズとおもてなしの心がなくてはなりません」。
 
どうしたら喜んでもらえるか、何を伝え、それをどう発信していくか。ニーズへのアンテナを張り、仕掛けを考える鈴井さんの目線は常にお客さんに向いています。そして軸にはブレることなく“北海道”があります。
 
 

知らなかった「北海道」との出会い。思いを映画に

2012年、鈴井さんが企画した映画『しあわせのパン』が公開されました。舞台は洞爺湖町の月浦地区。東京から移住し、パンカフェを営む夫婦の姿を描いた作品です。
 
企画のきっかけは、雑誌『スロウ』(帯広/クナウマガジン刊)との出会いでした。北海道の素晴らしい風景、その土地に暮らす人、手をかけて生まれるモノ。本の中には鈴井さんの知らなかった北海道があり、たちまちその魅力に引き込まれていったのだといいます。
 
「東京—札幌を行ったり来たりしている時期にスロウをたまたま手にしました。仕事の合間には本に載っている道内各地を巡って、目にする風景にすごく癒やされたんですね。自分はなにか飢えているなっていうのがあって、もしかしたら都会で暮らす人もこういう渇望感があるんじゃないかと思ったんです」。
自分が感じたことを多くの人に同じように感じてもらいたい、新しく知った北海道の魅力を伝えたい。ふくらんだ思いが『しあわせのパン』の企画につながっていったのです。
 
映画は東京の配給会社と共同幹事で、北海道の企業にも出資してもらい製作委員会を組織。企画に共感して、企業、人が集まり、「みんなでつくった北海道の映画」には、食材から家具に至るまで北海道でつくられたモノたちが使われました。
 
 

北海道の魅力を盛り込んだ2作目

この秋、同じく鈴井さんが企画した『ぶどうのなみだ』が公開になります。今作は、北海道の空知(そらち)という地域の小さなワイナリーが舞台。大きな空の下に葡萄畑が続く風景の中で、兄弟ふたりと彼らに関わる人たちが織り成すあたたかいドラマが展開していきます。
 
『ぶどうのなみだ』は『しあわせのパン』を撮っていたときから構想があり、舞台となったワイナリーの風景と、ワイナリーを営むご家族との出会いから生まれた企画だそうです。
 
 
 
 
胸のすくような四季の風景にくわえ、おいしそうな食べものも登場。スクリーンを観ていると、思わず喉が鳴ります。
「今回食材のコーディネートは、いろいろな生産者さんを知っているバルコ札幌の塚田(宏幸)シェフにお願いしました。空知の農園の野菜がたくさん使われているんですが、みなさん子どもを映画に出すような感じで協力してくださって。試写で観た後も“協力できてよかった”と言ってもらえたのが嬉しかったですね」。
 
北海道Likersが紹介した塚田シェフはこちら↓
情熱の仕事人。つくり、伝えていきたい北海道料理。BARCOM sapporoシェフ「塚田宏幸」
 
鈴井さんは、この北海道の映画をシリーズ化していくことを考えていると打ち明けます。
「『しあわせのパン』以降、洞爺に移住した人が増えています。『ぶどうのなみだ』では、まずは空知という地域を知ってもらい、ゆくゆくは土地に根づく人が増えて欲しい。北海道には空知のようなところがまだまだあります。観光地ではなく、知られていない魅力のある場所を舞台にして、伝えていきたいと思っています」。
鈴井さんには、映画というひとつのコンテンツを通して、北海道そのものを発信したいという熱い想いがあるのです。
 
ためらうより先に、一歩を踏み出していく鈴井さん。人を巻き込むパワーと行動力には驚かされるばかりです。原動力は人との出会いであり、人と会って話をしているときに何より幸せを感じるのだといいます。
「自分もバトンを渡されてここにいます。北海道の良さ、可能性を伝えていける人間になって、次にバトンを渡していきたい。北海道はそういう思いにさせてくれる土地です」。
 
社名の“キュー/CUE”は、“きっかけ”を意味します。人に元気と喜びを届けるたくさんの“CUE”を、鈴井さんは出し続けていきます。