2014年05月12日 | すすきのあき子

羊を探す旅。美深町「村上春樹、草原朗読会」へ

村上春樹の「羊をめぐる冒険」、その終盤は道北の美深町仁宇布(びふかちょうにうぷ)地区に酷似していることから、ハルキストの“聖地”としていま、静かな人気を呼んでいます。「村上春樹、草原朗読会」をつくった人びとに話を伺いました。
 
 

ハルキストの旅は美深駅から

美深町についておさらいを。札幌から特急で約2時間半、美深は名寄市(なよろし)の北に位置する、人口5千弱、主な産業が農業と林業という山間の町です。草原朗読会が開かれる仁宇布地区への最寄駅、ここで出迎えてくれたのは、美深町観光協会の小栗卓事務局長。ハルキストの来訪を精力的に応援し、地域を盛り上げています。
 
 
JR美深駅 美深駅交通ターミナル
▲周辺の古いレンガ倉庫になじむ景観のJR美深駅。旅情報は2Fの観光協会にGO
 
 
北海道Likersで紹介した小栗さんの記事はこちら↓
 
 
「美深駅のある交通ターミナル2Fには1985(昭和60)年に廃線となった、国鉄美幸線(びこうせん)の資料室があります。痕跡はほとんど見られませんが、汽車があった頃を感じてほしいですね。1Fには寄贈を受けた村上春樹の本や、美深の写真が見られるミニ資料室『村上春樹文庫』があり、2013(平成25)年に設けました」(小栗さん)。村上春樹ワールドは、すでにここから始まっているのです。
 
 
美深駅村上春樹文庫
▲美深駅1F、約10畳の空間を活用し小栗さんらがDIYで改装した『村上春樹文庫』
 
 

仁宇布を目指し、さらに山あいへ

「羊をめぐる冒険」の執筆にあたり村上氏が取材した当時は、宗谷本線の美深駅から東に向かう支線がまだあった頃。いま仁宇布に行くには、車での移動が最も現実的です。美深の中心地から東に道道49号線を約25km、わずか30世帯が住む山あいの集落が仁宇布。便数は少ないですが、美幸線に代わる町のデマンドバスで、終着の仁宇布で下車する手もあります。
 
春樹ファンの間で「作品のイメージとピッタリ!」と評判なのが、地区の一軒宿「ファームイン・トント」の眺めです。ここの草原を使った朗読会、一体どんな人が始めたのでしょう?
 
 
ファームイントント 村上春樹、草原朗読会
▲仁宇布の広大な土地で、宿と羊の牧場を経営しているファームイン・トント(※提供写真)
 
 
白樺
▲白樺も「羊をめぐる冒険」のアクセントとして登場します(※提供写真)
 
 

心捉える仁宇布の風景

2014年6月21日(土)、第3回「村上春樹、草原朗読会」が仁宇布で開催されます。朗読会を初回から企画してきたのは、東京都港区でソフトウェア会社を仲間と経営する中川紘司さん。高校時代に村上春樹を初めて読んで以来、大好きな作品それが「羊をめぐる冒険」。年4、5回は仁宇布に通い詰めるというハルキストです。
 
 
村上春樹、草原朗読会
▲“仕掛け人”の中川紘司さん(※提供写真)
 
 

中川さんの“巻き込み力”

ファームイン・トントの建物や周辺は、作品に登場する“鼠”の別荘にそっくり。周辺の風景が作品に似ていることをトントの主人、柳生佳樹さんが綴ったブログで知った中川さん。2001(平成13)年にこの地を訪れ「廃線となってはいるものの、ここ仁宇布が『羊をめぐる冒険』のモデルだ!」と直感しました。そして自主朗読会を開催。柳生さんも、ファンの“仁宇布詣で”を快く応援してきました。
 
 
美深町仁宇布 ファームイン・トント 松山牧場
▲中川さんが惚れた仁宇布の宿ファームイン・トント(※提供写真)
 
 
美深町仁宇布 ファームイン・トント 松山牧場
▲中川さんがトントに持ち込んだ本棚、KOTAROBOOKS(※提供写真)
 
 
中川さんは観光協会の小栗さんとも知り合い、地域を巻き込んで「村上春樹、草原朗読会」の名を冠し、第1回と第2回と少しずつ規模を大きくしながら朗読会を開催。通算5回、ハルキストの出会いの場をつくりました。会場はファームイン・トントの広い放牧地!まさに「羊をめぐる冒険」の世界に浸れます。
 
 
村上春樹、草原朗読会
▲2013年9月22日に行われた第2回「村上春樹、草原朗読会」(※提供写真)
 
 
村上春樹、草原朗読会
▲主人公と親友“鼠”の再会や“羊男”も出てくる、終盤の物語に聞き入る人達。2013年の朗読は東京で舞台を中心に活動する俳優、藤井宏次さん(※提供写真)
 
 
足繁く通うこの土地について「物語の再現性が高く、物語に深く入り込める点が仁宇布を訪れる魅力の一つですね」と語る中川さん。朗読会を開くにつれて、ハルキストが今まで以上に集まって来たことを実感。多様な人を巻き込み、山奥の住民約70名の仁宇布集落に中川さん達は、文学の出会いの場をつくっているのです!
 
 
サフォーク種羊 美深町仁宇布松山牧場
▲小説の重要なカギを握る羊。早春、仁宇布で生まれた子羊は日増しに成長します(※提供写真)
 
 

広がった視野とつながり

観光協会の小栗さんは、村上春樹をめぐる知識を深めるとともに、正直これほどまでに、道北と各地の人が村上春樹で縁を結ぶとは思わなかったよう。「草原朗読会にかかわる前に何作か読んだことはありましたが、中川さん達ファンに出会ってから、村上作品は長編を全て読みました。好きな作品はもちろん羊・・・といいたいところですが『1Q84』 、次に『羊をめぐる冒険』ですね。ファンにこれほど愛される美深を、北海道内外の人にもっと広く知って欲しいです」(小栗さん)。
 
 
美深町仁宇布 ファームイン・トント 松山牧場
▲作品に出てくる、背中に星形の斑紋がある羊。見つかるでしょうか(※提供写真)
 
 
ファームインの柳生さんは「彼と出会って4年、いろんな人とつながる機会がありました。英国BBC放送が取材に来たこともあり、世界中のファンに仁宇布が注目されていることを知りました。最近はノーベル文学賞の時期になると、ファンが集う東京のカフェ『6次元』には“村上春樹受賞の喜びの瞬間”を撮ろうとメディアが取材に来るんです。6次元に加えここ仁宇布にも、受賞発表の日に新聞社などが取材に来るようになりました。今後は北海道の道北を、村上春樹をめぐる旅として観光につなげたいですね」(柳生さん)。
 
 
美深町松山湿原
▲仁宇布から道道49号を東に10km進むと標高797mにある最北の高層湿原、松山湿原に。そこから先に道がない、まさに秘境!(※提供写真)
 
 

あなたの“羊”を探す旅へ

道北の僻地で開く羊探しの旅は、新たに人をつなげる場となり、美深にとどまらずさらに北の中頓別町で村上春樹読書会を企画するなど、新たな発展を見せています。
 
2014年、仁宇布で開催される草原朗読会。参加したい人は、美深町観光協会のサイトから「村上春樹、草原朗読会」に進み、Peatix(ピーティックス)というチケット決済システムで、朗読会の前売券を購入。当日はスマホ等を受付で提示すと参加できます。「当日料金を現地でお支払い頂いての、当日参加も大歓迎します!」と小栗さん。
 
定員があってないような草原を使った、なんとも大らかな催し。この草原朗読会を目的地とした、札幌や旭川発着のツアーもありますのでぜひどうぞ。梅雨のない北海道、仁宇布のさわやかな風と光に包まれながら、村上春樹の不思議な世界を感じてみませんか!
 
 
美幸線終着点
 
 

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