アイヌ民族の誇りを彫刻に懸ける木彫家・藤戸竹喜氏

札幌駅西口のコンコースに大きなアイヌ民族の木彫りの像があります。「イランカラプテ(こんにちは)」を北海道のおもてなしの合い言葉にしようというキャンペーンの一環で設置された「エカシ(長老)像」です。正式な名称は「ウレシパモシリ北海道 イランカラプテ像」といいます。(以下「エカシ像」と略記します)
彫刻の設置を計画していた一般社団法人「札幌大学ウレシパクラブ」が各地の彫刻家へ依頼し制作され、2014年2月に設置されました。
 
 
 
 
中心に立つ「エカシ像」は高さ約2.5メートル。周囲を囲むように配置されているものは「イクパスイ」という祭具で、彫刻家6人が1人1つずつ作りました。
メインの「エカシ像」を制作したのは、阿寒湖温泉在住の木彫家、藤戸竹喜氏です。
 
どんな想いで制作されたのか。藤戸氏を訪ね阿寒湖温泉へ行ってきました。
 
 
 
 
民芸品店やアイヌ料理店などが建ち並ぶアイヌコタンに、藤戸氏が経営する民芸店「熊の家」があります。ここから車で2、3分走ったところに藤戸氏の活動拠点である自宅兼ミュージアムがあり、こちらで話を伺いました。
 
 
 
 
藤戸氏は1934(昭和9)年に旭川市で生誕、12歳の時に彫刻家だった父のもとで熊を彫り始め、15歳の時に父と阿寒湖温泉の土産店「吉田屋」で熊彫り職人となりました。幼少の頃から木彫り一筋、その後独立し店舗「熊の家」を構えました。
その後の活躍も目覚ましく、皇太子ご夫妻へ「鶴のレリーフ」の献上、北海道知事(当時)町村金吾氏へ観音像の贈呈、東海大学総長の等身大像納品をはじめ、レーニン博物館(ロシア)へのレーニン像納品やスミソニアン博物館(アメリカ)への出典など、国内外へ作品を送り続けてきました。
 
生粋の職人でもあり彫刻家の重鎮でもある藤戸氏。面会するにも思わず緊張しましたが、とても気さくに応対して下さいました。
 
 
 
 
お話を伺いまず驚いたことが、設計図はおろかデッサンすらせずに彫り進めているということ。卓上に置ける木彫り熊をはじめ等身大の人物像でもデッサンはしないそうです。木を見ながら頭でイメージした作品を彫るのだとか。
失敗が許されない一発勝負。70年近いキャリアがものをいう、まさに職人技です。
 
彫る木の見極めも職人技ならではの感性が宿っているようです。彫刻に向く木はイチイやクルミなど白い木。ただ、高価なうえ大木はなかなか手に入らないそうです。特に等身大像を彫るには太さが1メートル以上ないと作れません。
固さ、風合い、色味など、他の樹木を各地で見て試したところ、神奈川県小田原市にある木材屋さんが扱うクスの木が一番適しているという結論になったそうです。木材を実際に見てから仕入れるため、小田原市まで出向くこともあるようです。
 
 
木彫ミュージアムの中には長年にわたる創作活動で生み出された作品が並んでいました。どれも職人魂を感じる作品ばかりです。
 
 
 
 
 
 
 
 
今回、札幌駅に設置された「エカシ像」の制作を引き受けた理由は、長年の夢だったからだそうです。
 
札幌駅は北海道一のターミナルで、多くの北海道民が利用するだけではなく北海道外からたくさんの方々が降り立つ場所。いわば北海道の玄関口でもあります。
海外ではカナダのバンクーバ空港に先住民族の像が飾られているように、アメリカ本土、ハワイ、オーストラリアなど、各地で人々の玄関口である空港に先住民族の歴史や文化を伝えるものが見られるのに、北海道にはなぜないのか。そう感じてきたそうです。
 
今回札幌駅で展示する作品の制作を依頼され、高齢になってきたこともあり巨大な像を作るには少々大変と感じつつ、長年の願いをかなえる機会だと感じ引き受けたそうです。
「民族の歴史、この土地のストーリーを伝えたい。土地の文化を感じるからこそ旅も楽しくなると思います。『エカシ像』は、その“おもてなし”だと思います」。
こう語る藤戸氏。
一つ大きな想いは実現しても、まだまだ創作意欲は続きます。
 
 
 
 
遠方から札幌駅へ降り立つ皆さん、北海道の原点を感じてみませんか?西口コンコースで、藤戸さんが作った「エカシ像」が「イランカラプテ~(こんにちは)」とご挨拶していますよ。
 
 
 

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