地域とともに!十勝バス株式会社編~十勝バス「日帰り路線バスパック」シリーズ(5)

帯広には、40年続いた地方路線バスの赤字をとめ、増収にした全国唯一のバス会社があります。それが「カチバス」こと十勝バス。まちの路線バスで行くお得な旅を紹介してきたバスパックシリーズ、5回目。最終回は十勝バス本社に。
 
 
 
 
 
 
まず十勝バスの生い立ちと、地方の路線バスの置かれた状況を、事業本部長の長沢さんに教えていただきました。
 
十勝バスは、1926(大正15)年創業の乗合バス会社で、帯広市内をはじめ十勝方面で路線バスや都市間バス、貸切観光バス、スクールバスや福祉ハイヤー事業などを展開しています。十勝バスの路線バス売上のピークは、今から45年前の1969(昭和44)年。最盛期以降、バスの利用は減少の一途をたどりました。十勝バスの輸送人員を見ると、ピークの1,600万人から約8割も減少して300万人。ここ20年間で営業収入も半減しました。
 
マイカーの普及や少子化によって路線バスの需要が減ると、バス会社の多くは運行本数の減便や、人員削減をやむなく行ってきました。そしていま、人口の減少が続く中で、地方のバス会社はどこも市町村や都道府県、国の補助金による補てんがなければ、経営が立ちゆかない状況なのです。
 
 
 
 
しかし2012(平成24)年に全国で唯一、十勝バスは“快挙”といえる路線バスでの40年ぶりの増収転換を果たしました。その業績は、現在もじわじわ好転で推移しているといいます。十勝バスには何が起きているのでしょう。今度は数人の社員に声をかけ、自身のことやお仕事のことを聞いてみました。
 
「私は昔からバスが大好きな子供でした。中学くらいから十勝バスに入りたいと思い、高校を出て一旦は自衛隊に入りましたが、望み通り十勝バスに入社できました。いまは実績を積んで担当する路線を増やし、都市間バスも任されるようになりたいです」(運転士の宮下さん)。
 
 
 
 
「私は乗務員に運転指導をしています。去年の暮れに新型車輌を5台導入しました。オートマチックなので運転の負担は減ったんですが、雪にはまった時など『振り』のパワーは、旧型のほうが勝ります」(教官の尾崎さん)。
 
「私の課を中心に、日帰り路線バスパックシリーズをつくってきました。私はバスで通勤しています。最終便が早いため終バスを意識した仕事の仕方になりましたし、通勤中も外を眺めて、企画になりそうなことを探しています」(乗合課の杉江さん)。
 
「大空団地線の乗務から戻りました。今年は雪が少なく、定時運行が求められる私たちには走りやすいですね。でも運賃収入の面では困った雪の少なさなんです。冬だけ運転はせずバスに乗ってくださるお客様の伸びが、今年は少ない状況ですね」(運転士の野村さん)。
 
 
 
 
みなさん、実によい笑顔で自身の仕事のことを語ってくれました。十勝バスにみなぎるこの明るさ。一体、どんなことが起きているのでしょう。十勝バスの取組みの数々、まずは写真でご紹介しましょう。
 
 
 
 
 
 
バスを利用する年代を、子供や高齢者と具体的にターゲットを絞って、十勝バスでは路線バスをPRしています。いずれも通学や通院など特定の行動パターンを持つ、バスを利用する可能性が高い人びと。明確なターゲットに向けて、バスの便利さを簡潔に示していることがわかります。これらはマーケティングの専門家などが、十勝バスに指導したのではなく、社員の創意工夫によって生まれたのです。
 
十勝バスは2008(平成20)年、業績悪化と原油高が経営を圧迫し、これ以上銀行から融資を受けられない状態に陥りました。運転士を減らせば運行本数の維持が難しくなります。閉塞した状況を変えたのが、社員自らバスのチラシを住民に配り、路線バスの意見を聞いて回るという「御用聞き活動」、つまり営業の強化でした。
 
路線バス会社が営業なんて前代未聞と言われながら始めたこの活動。まず帯広のどこから営業を始めるかを検討し、白樺通19条にあるバス停に着目しました。この1カ所の周囲200mに絞って家々を訪問し、バスの利用状況を調査。最初から手を広げず、まずは小さく始めようという発想で社員たちが行動したのです。
 
 
 
 
 
 
白樺19条バス停を皮切りに、十勝バスは2008(平成20)年からチラシ配り営業を始めました。社員も自ら決めたとはいえ「チラシを受け取るどころか、バスの話なんて聞いてもらえないだろう」と当初、多くが悲観的でした。しかし始めてしまえばそれは杞憂に。多くの住民が玄関を開けて社員の話を聞き、バスの不便さや不安、疑問を話してくれたのです。
 
「家の前をバスが走ることは知っているけど、どこに行くバスかわからない」、「乗るのは前のドアから?」、「いや降りる時が前っしょ」など、バスに乗らない人の声から、社員は厳しい現実を知りました。同時に「だからバスは使われなかったのか!」という、多くの気づきを得ました。さらにバス沿線の近隣に住む人に、直接会って話を聞くことに楽しさを覚えた社員は、バスが便利なことを熱く説いて回りました。
 
寄せられた声からは重要な発見がありました。それは「不便だから」バスに乗らないお客様以上に、バスに乗る際のさまざまな「不安」から、バスを敬遠する人が多くいたという事実でした。
 
そこで、お客様がバスで感じる不便や不安を、社員で話しあい改善していきました。そうして生まれたのが、これら十勝バスの新しいサービスでした。
 
●日帰り路線バスパックの発売
●通院や買物など、目的別時刻表の作成
●通学定期で土日祝日、帯広市内全域を乗り放題に変更
●十勝バス×タクシー業界によるコラボ企画
●十勝バス×十勝神社による縁起シールの作成
 
 
 
 
日帰り路線バスパックは、いま展開しているバス路線を使うため、開発リスクのほとんどない商品でした。さらに、外から十勝を訪れる旅行者に向けて、新たに路線バスという移動の選択肢を提供。そのうえ日帰り路線バスパックが、十勝の観光アクティビティとして機能し、旅行者がまちのあちこちに立ち寄り、滞在時間と消費金額を伸ばしました。十勝バスはこれらの新しいサービスを「会社よし、お客様よし、地域よし」になるよう、自社のエゴを脇において、小さくつくり育てたのです。
 
バスパックをはじめ、企画を次々と形にした結果、十勝バスにはお客様から感謝の声が届き、社員は自信と誇りをもって現場に向かうようになりました。そして対話と笑顔が増え、“守り”の強かった社風が大きく変わりました。いまは、移動する手段の提供から一歩前進し「目的提案企業になろう!」を合言葉に、十勝バスで働く全ての人が想いを共有しています。冒頭に出会った社員たちの明るさや前向きさ。それらは周囲に伝播し、いまの十勝バスの推進力へと変換されていたのです。
 
 
 
 
再び長沢さんは語ります。「バス会社には多くの課題があります。しかし生活の足を守るため、一企業の損得勘定ではない地域への想いや責務が、私たちにはあります。そのために国や道、自治体との協力が欠かせません」と表情を引き締めます。さらに続けて「ここ数年、十勝バスの取組みがメディアで紹介される機会も増えましたが、業績回復で“天狗”になる社員は一人もいません。さらに十勝バスが地域でできることを考え、損失を埋める補助金を減らしたいと、全員で取り組んでいます」。
 
 
 
 
十勝バスの実話をミュージカル化した作品「kachi bus」が、2014年2月半ばに帯広で凱旋公演しました。また2013年の12月には「黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語」(出版社:総合法令出版、著者:吉田理宏)という本も出版され、シンプルな文章でカチバスが危機から再生する様子を知ることができます。
 
十勝晴れの太陽で実った小麦を思わせる黄色いボディを看板に、十勝の公共交通を担うことで地域に役立ちたいと願う十勝バスは、「目的提案企業」を合言葉に、百年企業をめざして今日もまちをめぐります。
 
 
 
 
* 約250名=正社員、準社員、再雇用、パートタイマー等を含む
 
※ 本記事でご紹介した商品・サービスは、2014年1月9日時点のものです