情熱の仕事人。馬具づくりの技と心を込めて、“メイドイン北海道”を発信。ソメスサドル代表「染谷昇」

日本で唯一の馬具メーカーであり、その馬具づくりで培った高い技術と精神で、バッグなどの美しい革製品を生み出すソメスサドル社。馬とともに開拓の歴史を歩んできた北海道に創業して半世紀。代表の染谷昇さん(62歳)に話をうかがう機会を得ました。
 
人と馬をつなぎ、騎手の安全や命を守る馬具。ソメスサドルの品質はプロの世界からも信頼を集め、同社の鞍は武豊騎手をはじめ、海外の一流騎手にも長く愛用されています。
その高い革加工の技術を応用した、上質な風合いと機能的なデザインを持つバッグは幅広い世代に支持され、全国にブランドファンを増やしています。
 
札幌から道央自動車道を北に走り、1時間余りで砂川市へ。国道12号線から少し入ると、雪景色に赤いレンガが映える建物が見えてきました。ソメスサドルの製造拠点である、ショールームを併設した砂川ファクトリーです。
 
 
 
 
ソメスサドルは、砂川市の隣町でかつて炭鉱街として栄えた歌志内(うたしない)市にルーツがあります。炭鉱が姿を消していく中、石炭に代わる地場産業を育てようと、1964年に同社の前身、オリエントレザーが創業。北海道開拓を支えた農耕馬の馬具職人を道内から募り、当初は馬具の輸出を目的にスタートを切りました。
 
染谷さんは、父、兄(現会長)に継いで2009年社長に就任。創業から数えて5代目にあたります。
大学を卒業した2年後の76年、オリエントレザーに入社。当時はオイルショックや円高などの影響を受け、海外から国内へと馬具の販路の切り替えを迫られていた時期でした。染谷さんは東京を拠点に、市場リサーチと販路拡大のために全国を奔走。しかし国内の市場は小さく、新たな活路を求めて馬具以外の革製品の開発・製造にも力を注いでいくことになったのです。
 
 
 
 
時期を同じく、馬の本場・ドイツのフランクフルトで開催される馬具のメッセ(見本市)に、自社の鞍を出展する機会がありました。
海外の名高いメーカーの馬具づくりに刺激を受け、さらにフランスやイタリアなどを歩いて、エルメスをはじめとする世界の一流ブランドの革製品に直に触れたことで、目指そうとするものが確固たるものになったといいます。
 
「馬具づくりで培った技術を生かして、バッグのマーケットに打って出ようというのは夢でもありました。
馬具づくりはあぐらスタイルで作業することが伝統でしたが、バッグや小物など製品づくりの効率を上げるためにも、立っての作業へと変えていきました。現場は反発もあっただろうと思います。技術者たちの技術力、理解、認められるものをという熱い想い。これがあって、当社の今につながっているのです」と染谷さん。
 
85年には、フランス語の「sommet」(頂点)と英語の「saddle」(鞍)からネーミングした「ソメスサドル」に社名を変更。企画、製造、販売、リペアまで手がけ、現在全国に8店舗を展開しています。
 
 
「ここが当社の心臓部です」。染谷さんの案内で、工場に立ち入らせてもらいました。
 
 
 
 
工場と聞くと流れ作業をイメージしがちですが、こちらではまったく違っていました。裁断から仕上げまですべてこの工場で行われ、一人の技術者の手で一つの製品を仕上げていくのです。また、若い技術者が多いことにも驚きます。
「新卒で入社しても、いずれは一人で完成品を作り上げることができる、高度な技術力をつけていく環境をつくってきました」。
技術者は50人ほどで、その多くが30代。3〜4人でチームを組んで仕事を進め、その中で熟練の技術が受け継がれていくのだといいます。
 
 
 
 
素材の革は国産に加え、ヨーロッパのタンナー(皮をなめすところ)からも仕入れてくるそう。製品は多品種少量生産を基本とし、様々な種類のバッグから、財布やベルト、ステーショナリーといった小物まで手がけているのも大きな特徴のひとつ。それぞれ専門性が異なり、また、非効率なため、一つのメーカーが多品種の革製品を手がけているケースは国内では少ないのだそうです。
 
「原材料である革は、目視するのも一つですが、やはり触感が大事。現地へ出向いてその革の性質を把握し、ものづくりに反映しています。生き物の命をお預かりしてつくる革製品は、精神性が高いものです。ですから本来、大量生産には向かないものなのです」。
 
 
 
 
 
 
良いものをつくっていこうと、手間を惜しまない姿勢をずっと貫いていること、真剣な眼差しで革と向き合う技術者の方々、凛とした工場の空気。ものづくりへの想いに触れ、ソメスサドルの製品の価値を改めて感じました。
 
 
 
 
 
 
 
 
「マーケットは変わりましたが、一貫して変わらないのは、当社のものづくりの原点は馬具にあるということです。北海道は開拓期に農耕馬が活躍し、競走馬の産地でもあります。馬具の製造も、馬とともにブランドを発信できることも、北海道なくして成し得ません。
 
確かな道具をつくっていくことで、一般の革製品にも相乗効果が生まれていきます。本場ヨーロッパで私たちの革製品がどう認められるのか、いつか挑戦したい思いもあります。そのためにも継承を大前提として、技術を光輝く財産にしていきたいと考えています」。
 
 
 
 
午年の2014年、ソメスサドルは創業50周年を迎えます。砂川のショールームでは、新たな空間づくりを企画しているそうです。